
多剤耐性菌とは、複数の抗菌薬に対して感受性が低下し、通常量の抗菌薬では十分な治療効果が得られない細菌を指します。
参考)耐性菌とは
代表的なものとして、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)などが挙げられ、いずれも院内感染の重要な原因菌となっています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0315-4f86.pdf
さらに、看護師の人員不足や教育不足がある施設では、手指衛生や接触予防策の徹底が難しく、耐性菌の伝播リスクが高まることも指摘されています。
参考)https://omu.repo.nii.ac.jp/record/11689/files/2020000032.pdf
看護の現場では「どの菌か」だけでなく、「どのような患者背景・ケア内容で耐性菌が出たのか」を理解することで、具体的な感染対策の優先順位を判断しやすくなります。
また、多剤耐性菌は「感染」と「保菌」を区別して考える必要があります。
症状を伴わない保菌状態では、患者本人の苦痛は少ない一方で、他の易感染患者へ広げてしまうリスク管理が看護の重要テーマになります。
参考)https://amr.jihs.go.jp/pdf/201812_nursinghomes.pdf
このため、単に検査結果だけを見るのではなく、医師や感染対策チームと連携し、「保菌か感染か」「隔離レベルはどこまで必要か」を毎回確認する姿勢が求められます。
参考)https://www.kankyokansen.org/other/edu_pdf/3-3_10.pdf
参考:多剤耐性菌の定義や代表菌の整理に役立つ基礎解説
耐性菌とは - 看護roo!
多剤耐性菌と看護の現場で、最も基本かつ効果の高い対策は「標準予防策」と「接触予防策」の徹底です。
標準予防策としての手指衛生は、アルコール手指消毒と石けん・流水による手洗いを、ケア前後・手袋着脱後・環境整備後などのタイミングで徹底することが推奨されています。
接触予防策では、ガウンや手袋の着用、患者ごとの専用物品の使用、退出前の防護具の適切な廃棄や手指衛生の遵守が重要です。
例えば、多剤耐性菌陽性患者と、免疫抑制状態の患者を同じ看護師が受け持つ場合は、ケアの順番を「易感染患者→その他患者→多剤耐性菌患者」の順にし、多剤耐性菌患者の処置を最後に行う工夫が現場レベルで有効です。
ある研究では、ICUで多剤耐性菌陽性患者と易感染患者の受け持ちを分ける、陽性患者の処置を最後に行うなどの運用が、伝播抑制に寄与していることが報告されています。
環境整備も、多剤耐性菌と看護の重要な接点です。 kms.ac(http://www.kms.ac.jp/~mrsa/infection_control/manual/pdf/4_3(040301).pdf)
参考:多剤耐性菌対策の標準・接触予防策の考え方
薬剤耐性菌対策 - 日本環境感染学会 教育資材
多剤耐性菌と看護実践では、代表的な菌ごとの特徴を押さえておくことで、リスク評価とケアの優先度づけが行いやすくなります。
MRSAは、皮膚・軟部組織感染症、肺炎、菌血症などを引き起こしやすく、創部やカテーテル周囲の観察、ドレッシング材交換時の手技が重要です。
VREは腸管内の保菌が問題となり、便失禁やオムツ交換時の汚染管理、トイレ・ポータブルトイレの清掃が伝播防止のポイントになります。
多剤耐性緑膿菌(MDRP)は、ICU患者の予後を悪化させることが報告されており、人工呼吸器管理や尿路・ドレーン管理など、侵襲的デバイス周囲のケアが特に重要です。 www2.huhp.hokudai.ac(https://www2.huhp.hokudai.ac.jp/~ict-w/manual(ver.7)page/manual(ver.7)/8.05)MDRP%2020211001.pdf)
MDRPは湿潤環境を好むため、水回りや吸引ボトル、ネブライザーなどの管理が不十分だと、環境汚染から患者への再感染・交差感染が起こりえます。 www2.huhp.hokudai.ac(https://www2.huhp.hokudai.ac.jp/~ict-w/manual(ver.7)page/manual(ver.7)/8.05)MDRP%2020211001.pdf)
また、長期・反復的な抗菌薬使用や、特定の抗菌薬クラス(第3世代セファロスポリンなど)の乱用がMDRP選択のリスク因子であることから、抗菌薬の「使い方」を意識した看護師の観察・提言も求められています。
参考)医療環境における多剤耐性菌管理のためのCDCガイドライン20…
単に「多剤耐性菌が出たから怖い」という姿勢ではなく、「どの検体から」「どのくらいの菌量で」「臨床症状はどうか」といった情報を整理し、医師や検査室と対話する姿勢が、現場の合理的な対応につながります。
参考:MDRPに特化した院内マニュアルの例(看護ケア時の注意点に応用可能)
多剤耐性緑膿菌(MDRP) 対策マニュアル
多剤耐性菌と看護の現場で、看護師は「日常ケアの実践者」であると同時に、「感染対策の感度センサー」としての役割を担っています。
日本の多剤耐性菌対策ガイドラインでは、薬剤耐性菌による感染症を減らすためには看護師の配置を十分に行うべきと明記されており、人員配置そのものが感染対策の一部とされています。
看護師が慢性的な多忙状態にあると、手指衛生やガウン着脱、環境整備の一つ一つが「省略されやすい手技」になり、結果として耐性菌の伝播につながりかねません。
あまり知られていない視点として、「看護師自身の心理的負担」も、多剤耐性菌管理に影響します。
ICU看護師を対象とした研究では、多剤耐性菌に関する知識が十分でない場合、「過度な恐怖」や「必要以上の回避行動」が生じ、患者とのコミュニケーションが減る、ケアの質が落ちるといった影響が示唆されています。
教育によって菌の特徴や伝播経路を正しく理解すると、「必要な対策を適切に取る」方向に意識が変化し、過剰でも過少でもない現実的な感染対策につながることが報告されています。
参考:看護師視点での多剤耐性菌対策・教育の実際
多剤耐性菌と看護の現場では、患者・家族への情報提供と心理的支援も重要な役割です。
多剤耐性菌と聞くと、「一生治らないのか」「家族にうつるのか」といった不安が生じやすく、正しい説明が十分でない場合、患者・家族が自責感やスティグマを抱いてしまうことがあります。
看護師は、ガウンや手袋の着用、個室隔離の理由を、医学的な根拠と「患者本人を守り、他の患者を守るための対策である」ことをセットで説明することで、過度な不安や孤立感を軽減できます。
退院支援の場面では、多剤耐性菌保菌の有無が、介護施設や在宅サービスとの調整に影響することがあります。
「耐性菌がいるから受け入れ不可」とする施設も一部に存在しますが、近年はガイドラインに基づき、「標準予防策の徹底を前提に受け入れる」方向性が示されており、看護師が情報提供や調整役を担うことが重要です。
介護施設向けの薬剤耐性菌対策ガイドでは、手指衛生、環境整備、リネンや共有物品の扱いなど、病院と共通する対策が示されており、病棟看護師がそれらを踏まえて説明することでスムーズな連携が期待できます。
意外なポイントとして、家族の「日常生活上の工夫」を具体的に提案すると、不安が和らぎやすくなります。
例えば、在宅での多剤耐性菌保菌者に対しては、通常の生活動作で感染が拡大するリスクは低く、排泄物や創部に触れた後の手洗い、タオル・歯ブラシ・食器の共有を避けるといった具体的行動を伝えることが推奨されています。
さらに、看護師が「介護者の手荒れ対策」や「手袋の使い過ぎによるコミュニケーション低下」など、生活者目線のアドバイスを行うことで、単なる感染対策を超えた包括的な支援につながります。
参考:介護施設・在宅への橋渡しに役立つ薬剤耐性菌対策資料
介護施設等における薬剤耐性菌対策ガイド
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