
院内感染の原因菌の順位は、時代とともに変化しています。長らくMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が最多を占めてきましたが、近年の傾向としてグラム陰性桿菌による院内感染が問題となりつつあります。厚生労働省が実施する院内感染対策サーベイランス(JANIS)では、国内の医療機関における院内感染や薬剤耐性菌の発生状況などを調査し、集計結果を公開しています。JANISは任意参加型の動向調査で、現在およそ2,000の医療機関が参加しています。
参考)https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450123toukei=00450123" target="_blank" rel="noopener">院内感染対策サーベイランス
過去のデータを見ると、2008年から2011年までの薬剤耐性菌の新規患者発生状況では、MRSAが突出して多く、次いでPRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)、MDRP(多剤耐性緑膿菌)の順となっています。このデータは、小林一寛著『靭帯に危ない細菌・ウイルス』(PHPサイエンス・ワールド新書)より引用されたものです。
しかし、近年の傾向として、グラム陰性桿菌による院内感染症が問題となりつつあることが指摘されています。グラム陰性桿菌は菌種の種類や抗菌薬耐性パターンが多様であり、施設ごとに耐性獲得の状況が異なるため、各施設での対策が重要となります。
院内感染を引き起こす主な原因菌には、以下のようなものがあります。
参考)主な院内感染起因菌|一般社団法人 日本看護学校協議会共済会
黄色ブドウ球菌(MRSA、VRSAを含む):顆粒球減少症患者に肺炎や腸炎などが起こります。高度耐性菌が多いのが特徴です。
緑膿菌:尿路感染症、肺炎、敗血症などの日和見感染症を引き起こします。緑膿菌は湿潤な環境で生育・生存しやすいので、梅雨から夏にかけて空調による除湿が必要です。多剤耐性菌が多いことも知られています。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE):バンコマイシンや多くの抗菌剤に耐性を持つ菌です。
セラチア:高齢の寝たきり患者などに敗血症の原因となります。
レジオネラ:空調や水系に常在して感染源となり、易感染症患者に肺炎や敗血症を起こします。
これらの菌種は、それぞれ特徴的な感染経路やリスクファクターを持っており、適切な感染対策が求められます。
主な院内感染起因菌 - 看護師と看護学生、医療従事者を目指す人の応援サイト:院内感染の主な起因菌の一覧と特徴が記載されています。
最新のデータとして、厚生労働省の院内感染対策サーベイランス(JANIS)の報告が参考になります。これらの報告では、各医療機関からの検体データを基に、菌種ごとの分離状況や耐性率が集計されています。
参考)https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2024/3/1/ken_Open_Report_202400.pdf
特に注目すべきは、グラム陰性桿菌による院内感染症の増加傾向です。グラム陰性桿菌は、菌種の種類や抗菌薬耐性パターンが多様であり、施設ごとに耐性獲得の状況が異なるため、各施設での対策が重要です。厚生労働省も「グラム陰性桿菌による院内感染症の防止のための留意点」という資料を公開し、医療機関への注意喚起を行っています。
最近5年間の血液培養検査状況を見ると、分離された菌種はブドウ球菌44.0%、腸内細菌25.0%、連鎖球菌・腸球菌11.7%、ブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌5.2%であったとの報告もあります。このデータからも、グラム陰性桿菌が一定の割合を占めていることがわかります。
参考)https://www.niigata-cc.jp/facilities/ishi/Ishi49_1/Ishi49_1_07.pdf
院内感染対策サーベイランス 検査部門【入院検体】:最新の検査部門のデータが公開されています。
院内感染の意外な感染源として、医療従事者の身に着けるアクセサリーが注目されています。特に腕時計の装着と院内感染の関連については、いくつかの研究が行われています。
参考)医療従事者における時計および指輪着用の必要性:エビデンスに基…
腕時計装着者および非装着者を対象とした研究では、腕時計装着者の手首の細菌汚染が非装着者より多かったという結果が出ています。ある研究では、手首の試料を採取した結果、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が腕時計装着者の25%、非装着者の22.9%に認められ、腕時計装着者の手首の菌数が非装着者より多かった(P<0.001)と報告されています。
参考)腕時計の装着と病院感染 – JHIサマリー 日本…
ただし、手指の菌数には差がなかったという結果もあり、腕時計に直接触れなければ手指の汚染が増加することはないという結論にもなっています。この知見は、医療現場での手指衛生の重要性とともに、時計や指輪などのアクセサリーの扱いについても考えるきっかけとなります。
医療現場では、「指輪や時計を着けてもいいのか?」という問題が、感染対策委員会などで議論されることもあります。これは単なるマナーや職場ルールの話ではなく、「目に見えないリスクとどう向き合うか」という感染対策の本質に関わる問題です。
医療従事者における時計および指輪着用の必要性 - note:医療現場での時計や指輪の着用に関する感染対策の議論が詳しく書かれています。
腕時計の装着と病院感染 - 日本病院会:腕時計の装着と細菌汚染に関する研究結果がまとめられています。
院内感染の原因菌の順位を知ることは、効果的な感染対策を立てる上で重要です。MRSA、PRSP、MDRPといった多剤耐性菌が長年上位を占めてきましたが、近年はグラム陰性桿菌の増加も注目されています。
各菌種の特徴を理解し、適切な予防策を講じることが求められます。例えば、接触感染予防策、飛沫感染予防策、空気感染予防策などの標準予防策に加え、多剤耐性菌に対してはさらに厳格な対策が必要です。
参考)院内感染
JANISなどのサーベイランスデータを活用し、自施設の感染状況を把握することも重要です。施設ごとに耐性獲得の状況が異なるため、自施設のデータに基づいた対策が求められます。
セラチア菌による院内感染−病院内での集団感染防止のための留意点 - 日本医師会:セラチア菌による集団感染の防止策について詳しく解説されています。
院内感染対策サーベイランス(JANIS)事業の概要について - 厚生労働省:JANISの概要と活用法が記載されています。
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