
タペンタドールは、μオピオイド受容体(μ-opioid receptor)に対するアゴニストとして設計された新規オピオイド鎮痛薬であり、従来のモルヒネやオキシコドンと同様に中枢神経系で侵害受容性疼痛を抑制します。 μ受容体への結合親和性はモルヒネより弱いものの、臨床用量範囲では十分な鎮痛効果を発揮し、WHO方式がん疼痛治療における「強オピオイド」に相当するポジションに位置付けられます。
参考)https://www.miyabyo.jp/di_topics/docs/20140701_topics.pdf
μオピオイド受容体は脊髄後角、延髄、辺縁系などに広く分布しており、受容体活性化により一次求心性線維からのグルタミン酸やサブスタンスPの放出抑制、後シナプス側ニューロンの過分極を介して疼痛伝達を遮断します。 タペンタドールはこの経路を通じて「上行性疼痛伝導路」の信号を弱める一方で、後述する下行性抑制系を同時に強化する点が、単純なμアゴニストとの大きな違いです。
タペンタドールは、タペンタドール塩酸塩徐放錠として経口投与され、肝代謝後も活性代謝物をほとんど持たず、ほぼ未変化体と不活性グルクロン酸抱合体として排泄されるため、薬物動態が単純で予測しやすいという特徴があります。 この「活性代謝物非依存」の設計により、CYP2D6多型などの遺伝的要因の影響を比較的受けにくい点は、トラマドールと対照的です。
タペンタドールの臨床適応としては、「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」が承認されており、がん性疼痛患者を対象とした試験ではオキシコドン徐放錠に対する非劣性が示されています。 特に非オピオイド鎮痛薬で十分な除痛が得られず、強オピオイドの導入が必要と判断される場面で、モルヒネやオキシコドンの代替選択肢として位置づけられています。
参考)http://city.kagoshima.med.or.jp/kasiihp/busyo/yakuzaibu/kusurihitokuchi/pdf/H26-11.pdf
タペンタドールの大きな特徴は、μオピオイド受容体アゴニストであると同時に、ノルアドレナリントランスポーター(NET)阻害作用を有する「MOR-NRI(μ-opioid receptor agonist / norepinephrine reuptake inhibitor)」コンセプトで設計された点です。 in vitroではNETに対するKiが約0.48 μMと報告されており、ノルアドレナリン再取り込み阻害による濃度依存的なNA増加が、ラット脊髄および海馬のマイクロダイアリシスで確認されています。
下行性疼痛抑制系は、青斑核や延髄縫線核などから脊髄後角へ投射するモノアミン作動性神経(主にNA、部分的に5-HT)で構成され、神経終末から放出されたNAが前シナプス・後シナプスのα2A/α2Cアドレナリン受容体を介して疼痛伝達を抑制します。 タペンタドールはNA再取り込みを阻害することで脊髄背側角の細胞外NA濃度を上昇させ、この下行性抑制系を強化し、特に神経障害性疼痛モデルにおけるアロディニアや高感受性を抑える作用を示します。
抗うつ薬(SNRI)と比較すると、タペンタドールのNA再取り込み阻害は選択性が高い一方で、5‑HT再取り込み阻害作用は弱く設計されているため、セロトニン症候群リスクや5‑HT3受容体を介した痛み促進の関与を意図的に抑えた構造になっています。 近年の動物モデルでは、神経障害性疼痛下では下行性NA系が亢進し、α2受容体の機能も増強することが示されており、タペンタドールのMOR-NRI作用は、この変化した回路に適合した「NA優位のオピオイド」として機能していると解釈できます。
この二重機序は、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の双方で鎮痛効果を発揮しうる一方で、単一機序薬と比べて必要用量を抑制しうる「相乗効果」が示されています。 例えば、tail flick試験や神経障害性疼痛モデルにおいて、タペンタドールの鎮痛作用はナロキソン(μ拮抗薬)およびヨヒンビン(α2拮抗薬)の双方で部分的に拮抗されることから、MORとNA系の両機構が鎮痛に寄与していることが明らかになっています。
トラマドールはラセミ体(+/−)として存在し、(+)体がμオピオイド受容体活性と5‑HT再取り込み阻害を、(−)体がNA再取り込み阻害を主に担う「μ弱アゴニスト+SNRI様」薬として知られています。 一方タペンタドールは、シクロヘキサン環を除いた単純構造とし、活性代謝物を持たない単一光学異性体として設計され、μ受容体活性とNA再取り込み阻害を強化しつつ、5‑HT再取り込み阻害作用を意図的に減弱させた点が大きな違いです。
臨床的には、トラマドールは非麻薬性の弱オピオイドとして位置づけられ、WHO方式がん疼痛治療の第2段階薬として、非がん性慢性疼痛や神経障害性疼痛にも用いられてきましたが、CYP2D6多型によるM1代謝物形成の個体差が鎮痛効果変動の一因となることが知られています。 タペンタドールはこの弱点を補うべく、「代謝物非依存」「NA優位」「5‑HT抑制」という方針で改良されており、同じMOR-NRIコンセプトながら、より単純なPK/PDと安定した鎮痛効果を意図した設計になっています。
セロトニン再取り込み阻害作用を弱めた背景には、神経障害性疼痛下における脊髄5‑HT3受容体を介した痛み促進経路の関与や、抗うつ薬など他の5‑HT作用薬との併用でセロトニン症候群を起こしうるリスクを回避する狙いがあります。 動物実験においても、タペンタドールはNA選択性の高いSNRI様プロファイルを示し、脊髄NA上昇とα2受容体刺激を通じて、炎症性疼痛や糖尿病性神経障害モデルの熱高感受性をモルヒネより低用量で抑制することが報告されています。
興味深いのは、トラマドールでは反復投与により脊髄でのNA線維(DβH陽性線維)が増加し、アストロサイト活性化を抑制することで神経障害性疼痛の誘導抑制・改善作用を示すという、いわば「SNRI様の構造可塑性効果」が報告されている点です。 タペンタドールで同様の長期可塑的変化がどこまで起こるかについてはエビデンスが限られていますが、MOR-NRIという共通コンセプトから、α2受容体とグリア細胞の制御を介した慢性痛への長期影響が今後の検討課題とされています。
神経障害性疼痛に対する薬物療法のガイドラインでは、第一選択薬として三環系抗うつ薬、SNRI、カルシウムチャネルα2‑δリガンドが推奨され、オピオイドは第二〜第三選択薬とされていますが、トラマドールおよびタペンタドールは「オピオイド+モノアミン再取り込み阻害」というハイブリッド機序ゆえに、第一選択群に近いポテンシャルを有すると指摘されています。 ラットのCCIやSNLモデル、糖尿病性神経障害モデルでは、タペンタドールがモルヒネより低用量でアロディニアを改善し、特に病態関連熱高感受性に対して選択的な抑制効果を示したデータが報告されています。
神経障害性疼痛では、脊髄および脳のμオピオイド受容体が脱感作・ダウンレギュレーションし、強オピオイドの鎮痛効果が減弱する一方で、下行性NA系の線維発芽やα2受容体活性の増強が認められます。 この状況下では、純粋なμアゴニストよりも、NA再取り込み阻害を併せ持つタペンタドールの方が、より効率的に疼痛抑制ネットワークを動員できる可能性があり、実際に動物モデルではタペンタドールの鎮痛作用がナロキソンとヨヒンビンの双方で部分的に抑制される「二重機序依存性」が示されています。
タペンタドールはμオピオイド受容体作動薬であるため、便秘、悪心、嘔吐、傾眠など典型的なオピオイド関連副作用を伴いますが、日本の情報ではこれら消化器症状の発現率はいずれも20%未満であり、モルヒネやオキシコドンより低頻度と評価されています。 これは、NA再取り込み阻害を伴うことで必要なμ受容体刺激量を相対的に減らしうる点や、タペンタドールのμ受容体親和性がモルヒネより低く設定されている点と関連している可能性があります。
もう一つの興味深い点は、タペンタドールがトラマドールに比べてセロトニン再取り込み阻害作用を弱くした結果、SSRI/SNRIやMAO阻害薬など他の5‑HT作用薬との併用時におけるセロトニン症候群リスクを低減しうる設計意図があることです。 トラマドール使用時には、セロトニン症候群や痙攣リスクが問題となる症例報告が一定数存在しますが、タペンタドールは5‑HT系への寄与を最小限に抑えることで、「MOR+NA」という必要十分な鎮痛経路に絞り込んだ構造改善の一例といえます。
一方で、タペンタドールは米国のControlled Substances ActにおいてSchedule IIに分類されており、モルヒネやオキシコドンと同等レベルの身体・精神依存性ポテンシャルを有すると考えられています。 トラマドールが「弱オピオイド」として長く非麻薬として扱われてきたのに対し、タペンタドールは初期から強オピオイドとして規制されている点は、「μ受容体活性増強」「代謝物非依存」による鎮痛強度の向上と表裏一体のトレードオフといえます。
参考として、タペンタドールの詳細な薬理学的プロファイルやMOR-NRIコンセプトに関する総説として、中川らの総説は、トラマドールとの比較やNA再取り込み阻害の意義を理解するうえで非常に有用です。
トラマドールおよび新規オピオイド系鎮痛薬タペンタドールの鎮痛作用機序とその比較
また、臨床現場でのタペンタドールの位置づけや副作用プロファイル、がん性疼痛における使い分けの実際については、地方医師会や病院薬剤部が作成した解説資料が実践的な視点を提供します。
新規経口オピオイド鎮痛薬タペンタドール塩酸塩の解説(鹿児島市医報・薬剤部資料)
タペンタドールのMOR-NRI特性と神経障害性疼痛への応用を踏まえると、貴院では神経障害性疼痛を伴うがん性疼痛患者に対して、どの段階でタペンタドールを検討する運用が最も現実的でしょうか。
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