
ポリファーマシーは、単に薬剤数が多い状態ではなく、「多剤服用により薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などの問題が生じている状態」と定義されることが一般的です。
参考)ポリファーマシー解消と薬局薬剤師の役割
厚生労働省や各種ガイドラインでは「何剤以上」を厳密に決めてはいませんが、5〜6剤以上で有害事象リスクが有意に増加するとの報告が多く、臨床では「6剤以上」を一つの目安とすることもあります。
参考)https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20230911-1.pdf
高齢者では薬物動態の変化、腎機能・肝機能低下、認知機能障害、フレイル、併存疾患の多さなどが重なり、少量でも副作用が顕在化しやすくなります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001277340.pdf
特に、ベンゾジアゼピン系薬剤、抗コリン作用をもつ薬剤、低血糖を起こしやすい糖尿病薬、NSAIDsなどは「高齢者のポリファーマシーで要注意薬」として繰り返し指摘されています。
参考)https://byoutai.ncnp.go.jp/eguide/pdf_contents/polypharmacy-guide.pdf
ポリファーマシーがもたらす主な問題として、転倒・骨折、せん妄、認知機能低下、腎障害、出血イベントなどが挙げられます。
また、処方薬だけでなく市販薬、健康食品、漢方薬なども含めた「総薬物負荷」を評価しないと、相互作用や重複投与を見逃すリスクがあります。
意外に見落とされるのが「患者の自己中断・自己調整」によるアドヒアランス低下です。多剤服用に伴う飲み忘れ、怖さからの自己減量、症状が軽快した際の自己中止などが積み重なり、治療効果の減弱や再燃の一因となります。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/ryuhei/1237
薬剤師はこのような背景を把握し、単に薬剤数を減らすだけでなく「適正な薬物治療」と「患者の納得」を両立させる視点を持つことが重要です。
ポリファーマシー対策の中核となるのが、薬局薬剤師による服薬情報の一元管理です。
複数の医療機関・薬局を受診する患者では、処方内容が分散し、同効薬の重複投与や相互作用リスクが高まるため、一覧性のある情報管理が不可欠です。
かかりつけ薬剤師制度は、こうした一元管理を制度的に裏付ける仕組みとして導入されていますが、内閣府調査では「かかりつけ薬剤師を決めている患者は7.6%」と、まだ普及途上です。
一方で、お薬手帳は約7割の患者が利用しており、実際には「誰が主体的に情報を読み取り、整理し、医師へフィードバックするか」がポリファーマシー対策の成否を分けます。
薬剤師が実務で意識したいポイントとして、以下が挙げられます。
厚生労働省の「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」では、薬剤師の役割として、服薬情報提供書の活用、かかりつけ薬剤師によるフォローアップ、在宅薬剤管理指導などが明示されています。
これらを「加算算定のための業務」と捉えるのではなく、「地域で患者の生活を守るための情報ハブ」として位置づけることで、ポリファーマシー対策の意義が伝わりやすくなります。
高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方の具体的ステップを解説した厚生労働省資料
地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方
減薬は「不要な薬を削る作業」と誤解されがちですが、実際の臨床では「患者の価値観と疾患背景を踏まえて、治療目標を再設定し直すプロセス」に近いものです。
内科医と薬剤師が協働した減薬の報告では、「担当医が変わる」「訪問診療へ切り替わる」「入院・退院を契機に見直す」タイミングで減薬が成功しやすいとされています。
薬剤師が現場で取り組みやすい減薬支援のステップとして、以下が挙げられます。
多職種連携の場面では、薬剤師が「重複薬発見・副作用兆候の早期把握」において中心的役割を担います。
訪問診療や在宅医療の現場では、訪問看護師、ケアマネジャー、栄養士などが日常生活の変化を把握しているため、残薬確認やふらつき、食欲低下などの情報を共有することで、ポリファーマシーの影響を早期に検知できます。
日本病院薬剤師会の手順書では、ポリファーマシー対策を「施設全体で取り組むべき医療安全活動」と位置づけ、減薬のフローや多職種カンファレンスでの役割分担が具体的に示されています。
参考)https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20240415-1-2.docx
このような制度・手順書を背景に、薬剤師は「処方の評価者」としてだけでなく、「患者の生活と治療をつなぐナビゲーター」として存在感を高めることができます。
日本病院薬剤師会が示すポリファーマシー対策の具体的手順書
ポリファーマシー対策に関する業務手順書
ポリファーマシー対策は、診療報酬上も評価されており、薬局薬剤師にとっては業務を「見える化」する重要な根拠となっています。
代表的な評価として、「薬剤調整支援料1・2」「重複投薬・相互作用等防止加算」などが挙げられ、服薬情報の一元管理と処方提案が具体的な算定要件に組み込まれています。
意外なポイントとして、ポリファーマシー対策に関する加算は「単に薬剤数を減らしたかどうか」ではなく、「患者の状態に応じて服薬情報を整理し、医師へ提案し、その結果として安全性・有効性の向上を図ったか」が重視されます。
つまり、薬剤師が行う「服薬情報提供書の作成」「処方見直しの提案」「在宅訪問時の残薬確認と介入」は、ポリファーマシー対策として診療報酬面でも評価される活動なのです。
近年の調剤報酬改定では、ポリファーマシー対策や減薬への取り組みがより高く評価される方向性が示されており、「かかりつけ薬剤師によるフォローアップ」や「在宅薬剤管理指導」に関連する点数が強化されています。
参考)薬剤師向けガイド『切れ目のないポリファーマシー対策を提供する…
薬剤師がこれらの点数体系を理解しておくことは、現場でのポリファーマシー対策を継続可能なものにし、施設としての経営的インセンティブとも整合させる上で重要です。
もう一つ、あまり知られていない視点として、「ポリファーマシー対策は患者の自己負担軽減にも直結する」という点があります。薬剤数の削減により、薬剤費だけでなく通院頻度や残薬廃棄に伴うロスも減らせるため、患者・家族の生活面の負担軽減として説明すると受け入れられやすくなります。
このように、診療報酬・患者負担・医療安全の三つの軸を関連づけて説明できる薬剤師は、ポリファーマシー対策の推進役として施設内外から信頼されやすくなります。
診療報酬や薬剤調整支援料の位置づけをわかりやすく説明した薬局向け記事
ポリファーマシー解消と薬局薬剤師の役割
ポリファーマシー対策では、薬剤数の削減や相互作用の回避が注目されがちですが、意外と見落とされているのが「患者心理・行動への介入」です。
多剤服用の高齢者では、「薬が多いほど安心する」「薬を減らされると見放された気がする」といった感情が存在し、減薬の障壁となることが少なくありません。
内科医の経験談では、「薬への依存度が高く、不安が強い患者ほど、減薬に強い抵抗を示す一方で、自分の薬に関心が薄く何となく服用していた患者では、説明次第でスムーズに減薬が進む」と報告されています。
薬剤師が服薬指導の場面でこうした「薬に対する態度」を観察し、メモとして残しておくと、次回以降の減薬戦略を立てる際に有用な情報となります。
患者心理・行動への介入で有効な具体策として、以下のようなものがあります。
このような心理・行動面への介入は、ガイドラインや診療報酬では明文化されにくい領域ですが、ポリファーマシー対策の現場では確実に効果を発揮します。
薬剤師が「薬の専門家」としての知識に加え、「患者の語りを丁寧に聴くコミュニケーション技術」を磨くことで、減薬の成功率は着実に高められるでしょう。
医師と薬剤師が協働しつつ、服薬コンプライアンス・アドヒアランスの視点からポリファーマシーを考察したコラム
ポリファーマシー対策で薬剤師ができることとは|服薬コンプライアンス
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