
2026年度診療報酬改定では、中医協の答申を通じて「リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的な取り組み」が明確なキーワードとして打ち出されました。 従来から栄養とリハ、口腔は連携の重要性が語られてきましたが、今回は診療報酬上の評価として明文化され、病棟や地域包括ケアの現場に対して実質的な行動変容を迫る改定となっています。
参考)令和8年度診療報酬改定:国が求める管理栄養士の真価|管理栄養…
具体的には、個別改定項目案に「リハビリテーション・栄養管理・口腔管理の一体的な取組の更なる推進」が明示され、急性期から回復期、慢性期、在宅に至るまで多職種連携に係る加算・評価が整理されています。 たとえば回復期リハ病棟では、離床や口腔機能管理と栄養改善をセットで評価するような枠組みが示され、管理栄養士が単独で栄養指導を行うだけでなく、専従リハ職や歯科衛生士と同じテーブルで「入院早期からの介入計画」を作成することが期待されています。
参考)【2026年度診療報酬改定答申10】リハ・栄養・口腔管理の一…
この背景には、高齢患者のサルコペニア・フレイルが再入院やADL低下、長期入院と強く関連することを示すエビデンスの蓄積があります。 例えば回復期リハ病棟における高たんぱく・高エネルギー栄養介入が、退院時歩行能力や在宅復帰率を有意に改善するとの報告が増えており、栄養管理を「付随業務」ではなくリハビリ医療のコア要素として扱う流れが国際的にも主流です。これに呼応する形で、日本でも診療報酬の枠組みが整備されてきたと理解すると現場での優先順位づけがしやすくなります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001003511.pdf
意外なポイントとして、今回の三位一体評価では「病棟単位での体制整備」が重視され、個々の管理栄養士のスキルよりも「チームとしての機能発揮」が評価の軸とされている点が挙げられます。 つまり、優秀な個人が孤軍奮闘していても加算要件は満たしにくく、病棟カンファレンスへの定期参加、共同プロトコルの策定、共通評価指標(例えば体重、筋肉量、摂取エネルギー量、口腔機能評価スコアなど)の導入といった「組織的な仕組み化」が管理栄養士業務の大きなテーマになります。
2026年度の栄養関連改定では、「新設」「見直し」の両面で実務に直結する変更が多数示されています。 代表的なものとして、特別食加算への嚥下調整食の新設、慢性心不全の再入院予防継続管理料における栄養介入の位置づけ強化、入院時食事療養費の見直し、外来・在宅での栄養指導評価の再整理などが挙げられます。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/sinryouhoushu_faq_26/7047
嚥下調整食の評価新設は、これまで口腔・嚥下機能に配慮した特別食の提供が、人的・時間的コストに比べて十分に報酬でカバーされていなかった現状への対応と位置づけられます。 嚥下調整食分類2021などの基準に則り、ST(言語聴覚士)、歯科医師・歯科衛生士、看護師、管理栄養士が共同で嚥下評価と食形態設計を行う体制が整っているかどうかが、今後の施設評価に直結していくと考えられます。
参考)管理栄養士はどう変わる?2026年診療報酬改定のポイント
また、慢性心不全の再入院予防継続管理料では、食塩制限や水分管理だけでなく、サルコペニア予防の観点から十分なエネルギー・たんぱく質摂取をどう担保するかが重要な論点になっています。 高齢心不全患者では、厳格な塩分制限一辺倒がかえって摂取量低下や低栄養を招くことが知られており、今回の改定は「適切な栄養量を確保しつつ、生活指導を行う管理栄養士」の価値を高める方向と言えます。
入院時食事療養の見直しも現場インパクトが大きいポイントです。 食事提供体制や栄養ケアプロセス(栄養スクリーニング、アセスメント、ケアプラン、モニタリング)の有無が評価に反映されるようになり、単に「食事を出す」から「医療としての栄養ケアを提供する」ことが求められます。 多くの施設で栄養ケアプロセスは既に実施されていますが、記録の形式や他職種との情報連携(電子カルテ内の専用画面、栄養サマリーの標準化など)を見直すことで、改定内容への適合度を高めることが可能です。
なお、コードレベルでは医科点数表・短冊の該当部分を直接確認することが不可欠です。 とくにクリニック・中小病院では、自院の算定可能な栄養関連項目(外来栄養食事指導、在宅時医学総合管理料に付随する栄養評価、訪問栄養食事指導の算定要件など)を一覧化し、「どの職種が、どの場面で、どの項目を算定しうるか」を見える化しておくと、改定初年度の取りこぼしを最小化できます。
栄養関連改定の全体像や管理栄養士の役割変化を整理するうえで参考になる解説として、以下のような資料があります。
2026年度診療報酬改定における栄養管理関連項目の概要を整理した記事。短冊ベースでの項目解説に加え、現場実装のポイントがわかりやすく説明されています。
【令和8年度診療報酬改定】栄養管理に関連する改定項目は?
今回の改定で医療現場が特に注目しているのが、エンシュア・リキッドやラコールNF配合経腸用液など「栄養保持を目的とした医薬品」の保険給付の適正化です。 中医協総会の議論では、通常の食事による栄養補給が可能な患者に対して、これら経腸栄養剤を「食事代替」として経口処方するケースが少なくないことが問題視されました。
2026年度診療報酬改定では、添付文書本来の効能・効果である「手術後患者の栄養保持」や「経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給」に処方を限定する方向性が明確化され、経口摂取が可能な患者に対する経口投与は原則として保険適用外となる見通しです。 これにより、いわゆる「ドリンク剤感覚」で処方されていた症例では、栄養補助食品や医療用食品への切り替え、あるいは通常食の強化(間食・補食の導入、エネルギー密度を高めた献立設計など)が求められます。
この改定のポイントは、単純な「薬削減」ではなく、「栄養管理の責任主体を誰が担うのか」を問い直している点にあります。 従来、経腸栄養剤の処方は医師主導で行われることが多く、栄養状態の評価や食事との調整が不十分なまま、「とりあえず高カロリー剤を追加する」形で運用されるケースが散見されました。 今後は、管理栄養士が中心となって経口摂取可能患者のエネルギーギャップを評価し、食事・補食・経口栄養補助食品・最終的な経腸栄養の位置づけを階層的に設計する必要があります。
意外な論点として、エンシュア・Hのように特定の疾患を効能・効果として明記している製剤と、それ以外の経腸栄養剤との扱いの差も議論されています。 特定疾患に対する経口投与が引き続き保険適用とされる一方、疾患限定のない栄養保持目的医薬品では使用目的の明確化が強く求められ、診療録上での栄養状態評価や栄養治療計画の記載が今まで以上に重要になると考えられます。
このテーマを整理するうえで参考になる解説として、調剤現場向けに経腸栄養剤の保険適用見直しをまとめた記事があります。エンシュアやラコールの具体的な適応範囲と、2026年度改定後の実務対応が分かりやすく説明されています。
エンシュア、ラコールなど経腸栄養剤が保険適用除外に!2026調剤報酬改定
在宅医療・外来診療領域でも、2026年度改定は栄養介入の強化を明確に志向しています。 個別改定項目には「退院直後の訪問栄養食事指導に関する評価の新設」や「情報通信機器等を用いた外来栄養食事指導料の見直し」が盛り込まれ、急性期~在宅へのシームレスな栄養支援体制が評価される方向です。
退院直後は、食欲低下や味覚障害、嚥下機能低下、生活環境の変化などにより、栄養摂取量が大きく変動しやすい時期です。ここに管理栄養士が訪問栄養食事指導として介入し、退院時指導内容と在宅での実際の食環境とのギャップを埋めることが、再入院予防や在宅療養の継続性に重要であるとのエビデンスが蓄積されています。 診療報酬上の評価が新設されることで、これまで十分にリソースを割けなかった医療機関でも、退院前カンファレンスから訪問栄養指導までを一連のフローとして組み込むインセンティブが高まります。
一方、オンラインによる外来栄養食事指導では、コロナ禍以降に緩和された遠隔診療の枠組みを前提にしつつ、対象患者や算定要件が整理される方向と報じられています。 高齢者で情報端末の扱いが難しいケースも多いものの、家族が同席することで食事状況の把握がむしろしやすくなる、冷蔵庫や食器の実物を画面越しに確認できる、といったオンラインならではのメリットも報告されています。
ここで意外に見落とされがちなのが、「在宅医療の主治医側が算定する管理料」と「管理栄養士が行う栄養指導」の関係性です。 在宅時医学総合管理料等の算定要件の中に、栄養状態評価や食事療法の指導が含まれるケースでは、栄養指導をどこまで個別算定するか、どこまで包括評価に位置づけるかを院内で整理しておかないと、ダブルカウントや算定漏れのリスクが生じます。 在宅専門クリニックや訪問看護ステーションとの連携においても、管理栄養士の関与をどの契約形態で行うか(雇用、業務委託、連携先からの派遣など)を見直すタイミングと言えるでしょう。
在宅・外来栄養指導に関する中医協での議論や、在宅加算・訪問関連項目の整理には、以下のような動画解説も参考になります。
在宅医療領域の2026年度診療報酬改定論点を、中医協資料に沿って解説している動画。訪問栄養食事指導の評価新設や在宅関連加算の方向性が整理されています。
【2026改定】パート1-5|在宅その2(訪問栄養食事指導など)
今回の中医協 診療報酬改定 2026 栄養関連の改定は、単に点数が増減する話にとどまらず、「管理栄養士がどのようなポジションで医療チームに参画するのか」を再設計する好機でもあります。 三位一体の評価や在宅・オンライン栄養指導の拡充、栄養保持目的医薬品の適正化といった流れは、管理栄養士が病院内の「栄養指導室」から飛び出し、病棟・在宅・地域包括ケア会議の「前線」に出ていくことを前提とした改定とも読めます。
例えば、急性期病院の管理栄養士であれば、今回の改定を機に以下のようなキャリア戦略を描くことができます。
一方、在宅やクリニック領域では、オンライン栄養指導や訪問栄養食事指導を軸に、フリーランス型・兼業型の働き方が拡大する可能性があります。 地域包括ケアシステムの中で、「かかりつけ医」「訪問看護」「地域包括支援センター」と連携しながら、地域単位でフレイル予防や糖尿病・心不全の重症化予防プログラムを設計・運営する管理栄養士も、今後の重要なプレーヤーとなるでしょう。
さらに、栄養保持目的医薬品の適正化は、「サプリメントや栄養補助食品の選択・活用」を含めたトータルコーディネート力の重要性を高めます。 保険給付の範囲外となる食品・サプリメントについてもエビデンスに基づいて評価し、患者の経済状況に配慮しながら最適な栄養介入プランを提案できるかどうかが、これからの管理栄養士の価値を左右すると考えられます。
こうしたキャリア戦略を検討するうえで、2026年度改定の全体像と中での栄養関連の位置づけを理解しておくことは欠かせません。中医協答申や短冊の読み解き方自体も、「医療政策を理解し、自らの専門性を活かすフィールドを設計する」ためのスキルとして、管理栄養士にとって重要度が増していくでしょう。
参考)【完全保存版】2026年度診療報酬改定「短冊」徹底解説|リハ…
中医協の答申や個別改定項目(短冊)を原資料から確認したい場合は、以下のページが有用です。
2026年度診療報酬改定に関する中医協答申の抜粋をまとめたページ。個別改定項目(総-1)や医科診療報酬点数表(総-2 別紙1-1)へのリンクがあり、原資料を参照できます。
2026年度診療報酬改定 中医協答申(抜粋) - 東京保険医協会
また、リハビリテーションと栄養・口腔管理の一体的取り組みに関する詳しい解説として、以下の資料も参考になります。
2026年度診療報酬改定答申のうち、リハ・栄養・口腔管理の一体的取り組みや早期リハビリの推進に関する要点を整理した解説記事です。
【2026年度診療報酬改定答申10】リハ・栄養・口腔管理の一体的取り組み、早期からのリハビリ実施を更に推進 | GemMed
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