
第1相反応は、薬物代謝の第一段階として脂溶性化合物に機能的な極性基を導入する反応です。この反応の中心を担うのが、シトクロムP450(CYP)酵素系です。CYPはヘムタンパク質の一種で、NADPHと酸素を利用して基質を酸化します。ヒトでは約50種類のCYP分子種が報告されており、その中でもCYP3A4、CYP2D6、CYP2C9、CYP2C19、CYP1A2などが主要な薬物代謝に関与しています。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00384.html
第1相反応の化学反応としては、酸化反応が最も代表的ですが、還元反応や加水分解反応も含まれます。エステル結合の加水分解、アミド結合の切断、N-脱アルキル化、O-脱アルキル化、芳香環の水酸化など、多様な反応タイプがあります。これらの反応により、薬物分子はより極性の高い代謝物へと変換されますが、分子量そのものは大きく変化しないことが特徴です。
参考)薬の代謝 その3 薬物代謝に関わる酵素 - 一般社団法人化学…
意外な事実として、第1相反応で生成される代謝物が、必ずしも不活性な物質とは限りません。むしろ、一部の薬物では第1相代謝物の方が親化合物よりも薬理活性が高く、あるいは毒性を示すことがあります。例えば、ベンゾジアゼピン系の一部の薬物や、-codeine-(コデイン)はCYP2D6によってモルヒネへと代謝されることで鎮痛効果を発揮します。このように、前駆薬(プロドラッグ)として設計された薬物も存在します。
また、CYP酵素は薬物によって誘導されたり阻害されたりする性質を持っています。フェノバルビタールやリファンピシンはCYP3A4の強力な誘導剤として知られ、これらの薬物を併用すると、CYP3A4で代謝される他の薬物の血中濃度が低下し、治療効果が減弱する可能性があります。逆に、ケトコナゾールやエリスロマイシンはCYP3A4の阻害剤として作用し、併用薬の血中濃度を上昇させて副作用リスクを高めることがあります。
参考)http://www.kanazawa-med.ac.jp/~hiromu/Drug.htm
第2相反応に関与する主要な酵素としては、UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)、硫酸転移酵素(SULT)、グルタチオンS-転移酵素(GST)、N-アセチル転移酵素(NAT)、メチル化酵素などが挙げられます。これらの酵素は、それぞれ特定の基質特異性を持ち、薬物の化学構造に応じて適切な抱合反応が選択されます。
グルタチオン抱合は、特に反応性の高い代謝物やハロゲン化化合物の解毒において重要な役割を果たします。肝臓は体内で最も高濃度のグルタチオン(GSH)を含む臓器であり、このトライペプチドは反応性代謝物を捕捉して無毒化し、GSSG(酸化型グルタチオン)へと変換されます。アセトアミノフェンの過量投与時に生じる肝毒性は、反応性代謝物NAPQIがグルタチオンを枯渇させることで生じることが知られています。
薬物代謝は、薬物動態学における重要なパラメータに直接影響を与えます。クリアランス(CL)は、単位時間当たりに薬物が完全に除去される血漿の体積を表し、肝代謝が主要な除去経路である薬物では、肝クリアランスが全体クリアランスの大部分を占めます。肝クリアランスは、肝血流量、薬物の血中タンパク結合率、および肝代謝酵素の活性によって決定されます。
参考)https://jsn.or.jp/journal/document/54_7/0972-0976.pdf
半数消失時間(t1/2)は、血中薬物濃度が半分になるのに要する時間を示し、分布容積(Vd)とクリアランスの関数として表されます(t1/2 = 0.693 × Vd / CL)。肝代謝能が低下するとクリアランスが減少し、結果としてt1/2が延長します。これは、投与間隔の調整や維持用量の減量が必要となる臨床的意義を持ちます。
バイオアベイラビリティ(F)は、投与された薬物のうち全身循環に到達する割合を示し、経口投与時には消化管吸収率と肝での初回通過代謝の両方の影響を受けます。肝代謝酵素の活性が高い薬物では、経口バイオアベイラビリティが低くなり、経口投与と静脈内投与で必要用量が大きく異なることがあります。
薬物代謝能には顕著な個人差が存在し、その主要な要因の一つが遺伝子多型です。CYP酵素の遺伝子には、機能的な多型が多数報告されており、これにより代謝活性が正常(EM: Extensive Metabolizer)、中間(IM: Intermediate Metabolizer)、低代謝(PM: Poor Metabolizer)、超高速代謝(UM: Ultra-rapid Metabolizer)に分類されます。
CYP2D6は、その遺伝子多型が臨床的に最も重要視される酵素の一つです。CYP2D6のPMは、白人で約7-10%、日本人で約1%の頻度で認められます。CYP2D6の基質薬物(コデイン、タモキシフェン、一部の抗うつ薬、β遮断薬など)をPMに投与すると、血中濃度が顕著に上昇し、副作用リスクが高まります。逆に、UMでは治療効果が得られない可能性があります。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2014/146021/201433008A/201433008A0009.pdf
アセトアミノフェンは、通常用量では主にグルクロン酸抱合および硫酸抱合によって代謝されますが、過量投与時にはこれらの経路が飽和し、CYP2E1による代謝が相対的に増加します。これにより、反応性代謝物NAPQI(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)が過剰に生成され、グルタチオンを枯渇させて肝細胞壊死を引き起こします。
一方、薬剤過敏性肝障害は、薬物の代謝産物がハプテンとして作用し、免疫系を活性化させることで発症します。これは用量とは無関係で、特定の個体にのみ発症し、感作期間(通常1-6週間)を経て発現するため、予測が困難です。臨床的には、発熱、発疹、好酸球増多などのアレルギー症状を伴うことが多いという特徴があります。
参考)薬物性肝障害発症のメカニズム (medicina 25巻5号…
薬物性肝障害の臨床型は、肝細胞障害型(ALTが主に上昇)、胆汁うっ滞型(ALP、ビリルビンが主に上昇)、混合型(両方が上昇)に分類されます。肝細胞障害型の代表的な原因薬物としては、アセトアミノフェン、ハロセン、イソニアジドなどが、胆汁うっ滞型としては、クロルプロマジン、経口避妊薬、蛋白同化ホルモンなどが挙げられます。
臨床現場では、薬物性肝障害が疑われる場合、原因薬物の投与を速やかに中止することが最優先です。胆汁うっ滞が長期に及ぶ場合には、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の補充も考慮する必要があります。また、アセトアミノフェン中毒に対しては、早期にN-アセチルシステイン(NAC)を投与することで、グルタチオンの補充とNAPQIの直接捕捉により肝障害の進行を防ぐことができます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1i01.pdf
日本薬学会 薬物代謝
このリンクは、薬物代謝の定義と第1相・第2相反応の概要について、日本薬学会の公式用語解説として参考にしてください。
MSDマニュアル 薬物代謝
このリンクは、薬物代謝の臨床薬理学の全体像と、薬物動態パラメータとの関連について、信頼性の高い医学情報源として参考にしてください。
厚生労働省 薬物性肝障害対応マニュアル
このリンクは、薬物性肝障害の診断基準、臨床型の分類、および対応フローについて、公的機関の公式マニュアルとして参考にしてください。
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