
テラゾシンは、交感神経系に存在するα1アドレナリン受容体を選択的に遮断する薬物です。この受容体は、主に血管平滑筋に発現しており、通常はアドレナリンやノルアドレナリンが結合することで血管を収縮させる役割を担っています。
テラゾシンがα1受容体に結合すると、カテコールアミンの作用が阻害され、血管平滑筋が弛緩します。その結果、末梢血管抵抗が減少し、血圧が低下する降圧作用が発現します。動脈だけでなく静脈も拡張させるため、心臓に戻る血液量(前負荷)も減少させる効果が期待できます。
前立腺肥大症(BPH)に伴う排尿障害に対して、テラゾシンは異なる部位で作用機序を発揮します。前立腺、膀胱頚部、後部尿道の平滑筋にもα1アドレナリン受容体が高密度に存在しており、これらの受容体が過剰に活性化すると平滑筋が収縮し、尿道を圧迫して排尿障害を引き起こします。
テラゾシンはこれらの部位のα1受容体を遮断することで、平滑筋を弛緩させます。その結果、尿道の抵抗が減少し、尿流が改善されます。特に、尿の出始めの遅れ(排尿開始遅延)や尿流の勢いの低下、排尿後の残尿感といった症状に対して効果を示します。
参考)https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/T2751
前立腺におけるα1受容体は、主にα1Aおよびα1Dサブタイプが発現しています。テラゾシンはこれらのサブタイプにも作用するため、前立腺肥大症の治療にも有効です。ただし、タムスロシンやシロドシンといった他のα1遮断薬は、α1A受容体への選択性がより高く、血管への影響が少ないため、起立性低血圧のリスクが低いという特徴があります。
参考)https://sakuragaoka.jcho.go.jp/wp-content/uploads/2025/06/BPH2025-.7.pdf
テラゾシンの薬物動態は、その作用持続時間や副作用プロファイルに深く関係しています。テラゾシンは経口投与後、比較的速やかに吸収され、血中濃度が上昇します。バイオアベイラビリティ(生物学的利用率)は約90%と高く、食事の影響をあまり受けないという特徴があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00048539.pdf
テラゾシンの血中半減期は約12時間とされており、これが1日2回投与の根拠となっています。この比較的長い半減期により、安定した血中濃度を維持し、持続的な治療効果を得ることができます。
参考)バソメット錠0.25mgの基本情報(副作用・効果効能・電子添…
排泄は主に胆汁および尿中に行われ、投与量の約40%が尿中に、約60%が胆汁中に排泄されます。腎機能や肝機能が低下している患者では、テラゾシンの血中濃度が上昇する可能性があるため、少量から開始し、慎重に用量を調整する必要があります。
テラゾシンの副作用として最も注意すべきものは、起立性低血圧です。これは、急に立ち上がった際に血圧が急激に低下し、めまい、ふらつき、失神などの症状を引き起こす状態です。
参考)起立性低血圧 - 04. 心血管疾患 - MSDマニュアル …
起立性低血圧は、テラゾシンが血管平滑筋のα1受容体を遮断することにより、血管の収縮反応が抑制されるために発生します。特に、高齢者や循環器疾患を持つ患者、脱水状態の患者でリスクが高まります。
参考)Loading...
テラゾシンによる起立性低血圧を管理するための重要なポイントとして、以下の対策が推奨されます:
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00007031.pdf
参考)バイアグラの併用注意薬のテラゾシンとは - 新宿ウエストクリ…
その他の副作用として、めまい、頭痛、倦怠感、動悸、浮腫、肝機能値の上昇(ALT、AST、ALP、LDH)などが報告されています。
参考)医療用医薬品 : バソメット (バソメット錠0.25mg 他…
ここ数年で注目されている、テラゾシンの意外な作用機序について解説します。これは、従来の高血圧や前立腺肥大症の治療効果とは異なる、神経保護作用に関するものです。
2024年にNeurology誌に掲載された研究によると、テラゾシンを含む特定のα1受容体遮断薬(ドキサゾシン、アルフゾシン)を使用している男性において、レビー小体型認知症の発症リスクが低下することが示唆されました。具体的には、テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンのいずれかを使用している男性でのレビー小体型認知症の発症リスクは、タムスロシンを使用している男性よりも40%低いという結果でした。
この神経保護作用の機序は、テラゾシンが解糖系の酵素(PGK1:ホスホグリセリン酸キナーゼ1)に働きかけ、細胞内のエネルギー産生を助けることによるものと考えられています。パーキンソン病やレビー小体型認知症では、脳細胞のエネルギー代謝が障害されることが知られており、テラゾシンがこれを改善することで、神経変性の進行を抑制する可能性があります。
さらに、過去の前向研究では、テラゾシンがパーキンソン病の発症リスクを低下させる可能性も示唆されています。これらの知見は、テラゾシンが単なる「降圧薬・排尿改善薬」ではなく、神経変性疾患の予防薬としての可能性も秘めていることを示しています。
ただし、これらの研究は男性を対象としたものであり、女性への適用可能性は不明です。また、長期にわたる追跡調査が必要であり、現時点では神経保護作用を目的としたテラゾシンの使用は推奨されていません。しかし、高血圧や前立腺肥大症の治療でテラゾシンを処方する際に、これらの意外な効果も念頭に置いておくことは、医療従事者にとって有益な情報でしょう。
日本泌尿器科学会 前立腺肥大症診療ガイドライン(α1遮断薬の推奨グレードと使い分けについて)
特定の前立腺肥大症治療薬がレビー小体型認知症の予防に有効か|CareNet.com(テラゾシンの神経保護作用に関する最新研究)
エビオス錠 300錠 【指定医薬部外品】 胃腸・栄養補給薬