
院内感染は「入院後48時間以降に発症する医療機関内で獲得された感染」と定義されることが一般的で、原因菌の頻度は各施設の患者背景や診療内容により大きく異なります。
日本ではJANIS(院内感染対策サーベイランス)などの全国的なデータにより、集中治療室や一般病棟で検出される菌種の割合が毎年公表されており、これが「原因菌順位」を把握するための重要なベースとなります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/2r98520000026zh6.pdf
代表的な報告では、グラム陰性桿菌(緑膿菌、腸内細菌科、アシネトバクターなど)と薬剤耐性グラム陽性球菌(MRSA、VREなど)が、院内肺炎・尿路感染・血流感染などの主要な原因菌として繰り返し上位に挙がっています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000903818.pdf
院内感染対策サーベイランス報告書(ICU部門)のデータから、各菌種の検出割合を簡略化した一覧を示します。
参考)https://janis.mhlw.go.jp/report/open_report/2024/3/3/ICU_Open_Report_202400.pdf
| 菌種 | 概要 | 院内で問題になりやすい場面 |
|---|---|---|
| MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) | 皮膚常在菌由来で耐性化、接触感染で広がる。 | カテーテル関連血流感染、術後創感染、肺炎などで頻出。 |
| 多剤耐性緑膿菌(MDRP) |
湿潤環境を好むグラム陰性桿菌で高度耐性。 | 人工呼吸器関連肺炎、尿路感染、創傷感染で上位。 |
| 腸球菌(VREを含む) | 腸管常在菌だがバンコマイシン耐性株が問題。 |
長期入院患者の血流感染、尿路感染で検出されやすい。 |
| ESBL産生腸内細菌科 | 基質拡張型βラクタマーゼによりセフェム系耐性。 |
尿路感染、腹腔内感染、菌血症で増加傾向。 |
| セラチア | 水回りや消毒液ボトルに潜むことがあるグラム陰性桿菌。 | 新生児室や高齢者病棟での集団発生例が報告。 |
原因菌順位を見る際の注意点として、「施設全体の順位」と「特定診療科・特定デバイスに関連する順位」を分けて考える必要があり、ICUではMDRPやアシネトバクター、急性期一般病棟ではMRSAやESBL産生菌など、特徴的なパターンが現れます。
さらに、季節性の影響で、夏季には緑膿菌やレジオネラ、冬季にはインフルエンザウイルスやノロウイルスなどが院内感染の原因として増えることがあり、年間を通じた対策計画に反映させることが重要です。
院内感染対策サーベイランス全般の説明と公開データの見方は、厚生労働省JANISの公開情報が参考になります。
院内感染対策サーベイランス公開情報(JANIS)
院内感染の原因菌として最も頻繁に挙がるMRSAは、皮膚・鼻腔の常在菌から派生した耐性株であり、顆粒球減少症患者など免疫不全の患者では肺炎や腸炎、敗血症の原因となり得ます。
MRSA対策では接触感染予防策(手指衛生、個人防護具、患者ゾーニングなど)が基本ですが、意外な盲点として「医療従事者自身の鼻腔保菌」や「共有のタブレット端末・キーボード表面の汚染」が、患者間の菌移動の媒体になることが指摘されています。
多剤耐性緑膿菌(MDRP)は湿潤環境を好み、水回りや呼吸器回路、加湿器、湿ったモップなどで増殖するため、梅雨時や夏季に空調による除湿と、湿潤物品の管理が感染対策のキーになります。
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は、長期にバンコマイシンや広域βラクタムを使用している患者で選択されやすく、便中に大量排泄された菌が周囲環境に広がることで院内伝播が起こります。
あまり知られていないポイントとして、セラチアは消毒薬の希釈ミスや長期放置された消毒液ボトル内部に定着し、手指消毒や器具洗浄のつもりが逆にセラチアを広げる結果になってしまう事例が報告されています。
真菌ではカンジダやアスペルギルスが、長期ステロイド療法や抗菌薬使用後の菌交代症として院内で問題になりますが、空調設備や加湿器、観葉植物、施工不良の壁面などがアスペルギルスの供給源となることは、日常のラウンドでは見逃されがちな盲点です。
薬剤耐性菌の一部は、便や皮膚表面に定着後、症状がないキャリア状態として残るため、「現在の感染症治療が終わった患者」も、院内では原因菌保有者としての視点が必要になります。
原因菌の分類と特徴を包括的に解説した総説として、日本耳鼻咽喉科学会関連の論文「院内感染とは~その基本概念と対策~」が参考になります。
院内感染 原因菌 順位を実務で活かすためには、単純な菌種ランキングだけでなく「感染経路別」「デバイス別」「診療行為別」にハイリスク場面を整理しておくことが重要です。
肺炎(特に院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎)では、緑膿菌、アシネトバクター、腸内細菌科、MRSAなどが主要な原因菌であり、人工呼吸器回路の管理、口腔ケア、早期離床などが予防介入のターゲットになります。
尿路感染では、ESBL産生腸内細菌科菌や緑膿菌、腸球菌が頻出し、留置カテーテルの使用期間を短縮することやクローズドドレナージシステムの維持、バリアを破る操作の最小化が原因菌対策の軸となります。
血流感染(カテーテル関連血流感染)は、MRSA、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、腸内細菌科菌、カンジダなどが上位を占め、中心静脈カテーテル挿入時の最大バリアプリコーション、挿入部位の選択、ドレッシング交換の適正化が具体的な対策です。
食中毒型の院内感染では、サルモネラ、病原性大腸菌O-157、ノロウイルスなどが問題となり、調理場の衛生、配膳車や給食カートの清掃、食器洗浄ラインの管理が、医療現場からは少し距離があるものの重要な原因菌対策の場面となります。
さらに、レジオネラ菌は給湯設備や循環浴槽、加湿器などの水系設備に常在し、易感染患者に肺炎や敗血症を起こすため、施設管理部門との連携を含めた「設備由来菌」の視点を持つことが不可欠です。
院内感染 原因菌 順位を経路別に整理したチェックリストを作成し、部署ごとに「自部署で高順位となりやすい菌種」「その菌種が問題になる行為・場面」を共有することで、現場の行動変容につながりやすくなります。
感染経路とその対策全般については、健康長寿ネットの「院内感染」のページが日本語でまとまった解説を提供しています。
院内感染 | 健康長寿ネット
院内感染 原因菌 順位を語る際に欠かせないのが、抗菌薬の適正使用による耐性菌の抑制であり、抗菌薬の使い方こそが原因菌の顔ぶれと順位を変えてしまう最大の要因のひとつです。
薬剤耐性菌として、MRSA、VRE、MDRP、MDRA、ESBL産生菌、メタロβラクタマーゼ産生菌などが挙げられ、これらは通常の抗菌薬では治療困難であるだけでなく、院内での拡散が起こった際にアウトブレイク対応が必要になります。
グラム陰性桿菌による院内感染症防止のための厚生労働省通知では、広域スペクトラム抗菌薬の安易な長期使用が、MDRPやESBL産生菌の選択圧となり、結果としてこれらの原因菌順位を押し上げることが明記されています。
薬剤耐性菌と抗菌薬使用の関係を系統的に理解するには、日本内科学会雑誌などの総説が参考になります。
院内感染 原因菌 順位に基づく対策は、感染対策チーム(ICT)だけでなく、医療情報システムや院内ネットワークの活用によって、よりリアルタイムかつ現場志向のものに進化しつつあります。
電子カルテや検査システムに原因菌情報を構造化して蓄積し、ICU・一般病棟・外来ごとに菌種別・感染症別の発生件数や耐性パターンをダッシュボード表示することで、「現在の自院の原因菌順位」を可視化し、対策の優先度を直感的に共有できます。
さらに、ベッドサイド端末やラウンド用タブレットに「該当患者の保有耐性菌情報」「接触・飛沫・空気感染対策の要否」「環境清掃の強化対象」をポップアップ表示することで、看護師やリハスタッフ、検査技師などの行動に即座に反映させることができます。
独自視点として、院内感染 原因菌 順位の推移を「設備管理情報」と連動させることで、空調・給湯・水回り・医療機器保守の問題と原因菌発生の相関を探索する試みが考えられます。
例えば、一定期間にMDRPやレジオネラ関連肺炎の発生が増えた際に、同時期の給湯設備の保守記録、人工呼吸器回路の交換頻度、加湿器フィルタ交換状況などをシステム上で紐づけて確認することで、設備・運用由来の原因菌供給源を早期に特定できる可能性があります。
また、院内感染 原因菌 順位と抗菌薬使用量(DDD)を部門別に可視化し、「特定の診療科で耐性菌順位が急上昇している場合、その診療科の抗菌薬使用パターンに偏りがないか」を自動アラートするような仕組みも、医療情報システムを活用した次世代の感染対策として期待されます。
JANISなどの公開データをローカルな院内データと照合する際の技術的な考え方は、厚生労働省が公開する報告書とICU部門の資料が参考になります。
グラム陰性桿菌による院内感染症防止のための留意点(厚生労働省)
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