
グラクソ・スミスクライン(GSK)は2025年7月、デルモベート軟膏0.05%・クリーム0.05%・スカルプローション0.05%の3剤形すべてについて、在庫消尽をもって販売を終了すると発表しました。公式な理由は「諸般の事情」という曖昧な表現にとどまっています。
参考)https://www.gifu-upharm.jp/di/mguide/salesupply/2g/ss2494722507.pdf
しかし、医療現場ではこの背景に厚生労働省の後発品推進政策、特に2024年10月に導入された「長期収載品の選定療養制度」が大きく影響していると推測する声が多数あります。
参考)https://shoku.zenhp.co.jp/derumobetohanbanokariyuutodaitaihin.html
この制度では、後発品のある先発品(長期収載品)を患者が希望する場合、後発品との薬価差額の4分の1を患者が特別負担として支払う仕組みになっています。デルモベート軟膏の薬価は14.6円/gで、後発品(クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏「イワキ」など)はおおむね12〜13円/g程度です。1本30gあたりの先発品選択コストは数十円単位でかさみます。
この「先発品に追加コストがかかる仕組み」が広まると、病院・薬局双方が後発品を優先するようになります。先発品の処方量が激減すれば、メーカーは採算性の観点から製造を続けるメリットを失います。全日本民医連の情報によれば、この制度の導入後に「先発医薬品を製造・供給する企業が撤退し、安定供給品目が失われる事態も出ている」と報告されており、デルモベートの販売中止もその流れの一環だと考えられています。
ももスキンケアクリニックの院長も「厚労省の後発品政策の影響を多分に受けていることが廃盤の理由だと推測される」とブログで明言しています。長年の「定番薬」が政策の波に飲み込まれたかたちです。
デルモベートの販売中止に伴い、各医療機関・薬局では「クロベタゾールプロピオン酸エステル」の後発品への切り替えが進んでいます。有効成分・濃度・効能効果はデルモベートと同等です。
代替品の主な候補は以下のとおりです。
切り替え時に特に医療従事者が意識すべきポイントが2つあります。
🔹 スカルプローションの基剤の差異
先発品のデルモベートスカルプローションはアルコール(イソプロパノール)基剤であり、ベタつきが少なく頭皮への使用感が良好でした。後発品ローションでも基剤の種類はメーカーにより異なります。アルコールによる刺激が気になる患者には、基剤の確認が必要です。
🔹 類似名称薬の取り違えリスク
「クロベタゾールプロピオン酸エステル(Strongest:I群)」と、同じく販売中止になった「クロベタゾン酪酸エステル(旧キンダベート:Medium:III群)」は、名称が極めて似ています。ランクが2段階も異なるため、処方・調剤時の取り違えが患者への過剰投与または効果不足につながるリスクがあります。
愛媛大学医学部附属病院の薬剤部安全使用ニュースでも、この類似名称の混同を「注意すべきポイント」として明記しています。
参考)https://www.hsp.ehime-u.ac.jp/medicine/wp-content/uploads/202512-1safetynews.pdf
名称の類似点を整理。
この1文字差が大きな効力差を意味します。一読して状況が理解できる形で院内に周知しておくことが、インシデント防止につながります。
デルモベートの経過措置期限は2026年3月31日です。
経過措置が終了すると何が起きるか。薬価基準からデルモベートが削除され、保険請求ができなくなります。在庫があったとしても保険診療では使用できなくなるため、実務上は代替品への完全移行が必須です。経過措置終了=即使用不可という認識が必要です。
院外処方を行っている場合は、処方箋への記載も変わります。多くの医療機関では既に一般名処方(クロベタゾールプロピオン酸エステル)に移行しているはずですが、まだブランド名で処方している施設は速やかな対応が求められます。
GSKによる公式な経過措置終了期日は「2026年3月末日(予定)」と案内されています。
早川医院の報告によれば、「デルモベートクリーム・軟膏・スカルプと、キンダベート軟膏は2025年末から終売となり、2026年3月末で処方もできなくなりました」とのことです。
参考)デルモベートとキンダベートの処方終了について - 早川医院
参考リンク:GSKによるデルモベートの公式販売中止・経過措置情報
GSKpro「医療関係者向け情報 お知らせ(デルモベート:薬価基準削除に伴う経過措置期間移行のご案内)」
後発品の供給面でも注意が必要です。2025年7月にデルモベートの販売中止が発表されて以降、後発品の需要が急増しました。
岩城製薬の決算資料には「2025年7月に先発医薬品の販売中止が発表されたことにより『クロベタゾールプロピオン酸エステル』の販売が増加した」との記載があります。
一方で、代替後発品の一部(クロベタゾールプロピオン酸エステルクリーム「MYK」5g×10など)では一時的に供給停止が生じた事例も確認されています。代替品なら問題ありません、とは言い切れない状況です。
採用薬品の切り替え対応として、以下の点が現実的な対処です。
2025年5月の厚労省調査では、病院の53.4%が後発品の供給体制が「悪化した」と回答しており、医療現場での実感と政策目標の乖離が数字として表れています。
デルモベートの販売中止は、単なる「1品目の入れ替え」では済まない問題を含んでいます。これは見落とされがちな視点です。
先発品が市場から消えると、後発品だけが残る状態になります。後発品は有効成分が同一でも、添加剤・基剤・製造プロセスが異なります。長年の臨床経験に裏打ちされたデルモベートのデータや処方実績は、そのまま後発品に引き継がれるわけではありません。
さらに深刻なのは、後発品メーカー自体の経営安定性の問題です。日本のジェネリック医薬品業界では、2022〜2023年に複数のメーカーで品質不正問題が相次ぎ、製造停止・業務停止命令が続出しました。後発品への一本化が進むことは、特定メーカーへの依存度を高め、不測の供給断絶リスクを増大させます。
実際、クロベタゾールプロピオン酸エステル軟膏「NIG」(日医工)は「品質管理体制と製造ラインの適正化の観点から継続製造が困難」として販売中止となった事例もあります。
また、後発品政策が推し進められる中で、先発品を持つ多国籍企業がコスト採算の合わない日本市場から撤退していく構図が続いています。結果として「適切な薬が存在するのに処方できない」という事態が現場の最前線に波及してきているのです。
医療従事者として押さえておきたい視点は、「代替品があるから問題ない」という単純な結論への安易な同意を避け、後発品の品質・供給安定性を定期的に評価し続けることです。日本皮膚科学会などのガイドラインのアップデートや、ストロンゲストクラスに位置するジフラール・ダイアコートの動向も含め、同クラスの薬剤全体の供給状況を視野に入れた処方戦略が求められます。
厚労省の後発品促進政策と医薬品の安定供給は、構造的に矛盾をはらんでいます。
参考リンク:長期収載品の選定療養制度の詳細と問題点
全日本民医連「くすりの話 長期収載品に対する選定療養」
参考リンク:後発医薬品供給悪化に関する厚労省調査の解説
湯山製作所「2025年5月号:後発品供給『悪化した』4割」