ブロナンセリン(商品名:ロナセン)は、統合失調症の治療に用いられる非定型抗精神病薬(SDA:セロトニン・ドーパミン拮抗薬)です。 医療現場では「この薬は太りますか?」という質問を患者から受けることが少なくありません。 実際の臨床データと作用機序を踏まえ、ブロナンセリンの体重増加リスクについて整理します。
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ブロナンセリンの承認時における副作用報告を確認すると、体重増加は2.7%、体重減少は1.9%と報告されています。 この数値は、他の非定型抗精神病薬と比較して低い頻度に位置づけられます。例えば、オランザピン(ジプレキサ)やクロザピン(クロザリル)といった薬剤では、10%を超える体重増加が報告されることも珍しくありません。
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メタ解析研究による抗精神病薬の体重増加リスク比較では、ブロナンセリンは「代謝抑制作用が比較的少ない薬剤群」に分類される傾向があります。 スイス・ジュネーブ大学のMichel Sabe氏らによる2023年の用量反応メタ解析では、アリピプラゾール長時間作用型注射剤を除くすべての抗精神病薬で体重増加との有意な用量反応関係が認められましたが、薬剤ごとにその程度には大きな差がありました。
参考)https://www.huhp.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2025/01/6f6d9f11ad9c1921e7471b6a0f389081.pdf
具体的には、体重増加の程度が最も大きかったオランザピン持効性注射剤では4.29kg/8週という結果だったのに対し、ブロナンセリンを含む一部の薬剤ではより緩やかな増加曲線を示しました。 このデータは、処方選択において重要な示唆を与えます。
ブロナンセリンが体重増加を引き起こす可能性があるメカニズムは、主に以下の2つの経路が考えられています。
1つ目は、抗ヒスタミン作用(H1受容体遮断作用)による直接的な食欲増加です。ヒスタミンH1受容体は視床下部の食欲調節に関与しており、この受容体が遮断されると食欲亢進が生じることが知られています。 しかし、ブロナンセリンの抗ヒスタミン作用は他の抗精神病薬と比較して弱いという特徴があります。
2つ目は、抗セロトニン2C受容体遮断作用です。セロトニン2C受容体も食欲抑制に関与する受容体であり、この遮断により摂食行動が増加する可能性があります。 ブロナンセリンでは中程度のセロトニン2C遮断作用が認められますが、ドパミンD2受容体遮断作用と比較すると相対的に小さいため、食欲への影響は限定的とされています。
さらに、非定型抗精神病薬全般に共通する現象として、基礎代謝の低下が指摘されています。 明確な機序は解明されていませんが、抗精神病薬が脂肪組織や肝臓などの末梢組織に直接作用し、エネルギー代謝を変化させる可能性が示唆されています。
北海道大学の研究グループによる2025年のプレスリリースでは、抗精神病薬が食行動を制御するメカニズムとは無関係に組織に直接作用し、インスリン抵抗性や血糖調節に影響を与える可能性が報告されています。 この知見は、体重増加が単なる「食べ過ぎ」だけでなく、薬理学的な代謝変化に起因する部分もあることを示しています。
ブロナンセリン服用中に体重増加が認められた場合、以下の対策が有効であると考えられます。
🔹 食事内容の見直し
🔹 運動習慣の導入
🔹 服薬タイミングの調整
🔹 定期的な体重モニタリング
生活習慣の改善だけで体重増加が抑制できない場合、医師との相談のもとで薬物療法の調整を検討することもあります。 具体的には、減量による効果維持、あるいは代謝系副作用の少ない他の抗精神病薬への切り替えなどが選択肢となります。
抗精神病薬の体重増加リスクを比較する際、以下の分類が有用です。
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| 薬剤名(一般名) | 商品名 | 体重増加リスク | 代謝系副作用の特徴 |
|---|---|---|---|
| オランザピン | ジプレキサ | 非常に高い | 食欲亢進、インスリン抵抗性、脂質異常 |
| クロザピン | クロザリル | 非常に高い | 著しい体重増加、糖尿病リスク高 |
| クエチアピン | ビーソルドン | 高い | 中等度〜高度の代謝影響 |
| リスペリドン | リスパダール | 中等度 | 用量依存性の体重増加 |
| ブロナンセリン | ロナセン | 低い | 代謝影響は比較的少ない |
| アリピプラゾール | エビリファイ | 非常に低い | ほとんど影響なし、場合により体重減少 |
| ルラシドン | ラツーダ | 低い | 代謝プロフィールは良好 |
この表から明らかなように、ブロナンセリンは非定型抗精神病薬の中で「体重増加リスクが低いグループ」に位置づけられます。
特に注目すべきは、アリピプラゾール(エビリファイ)とルラシドン(ラツーダ)がさらに代謝プロフィールに優れる一方、ブロナンセリンは幻覚・妄想などの陽性症状に対する効果が確実であるというバランスの良さが特徴です。
2023年のメタ解析研究では、抗精神病薬の用量と体重増加の関係には「準放物線型」「定常型」「上昇型」の3つのパターンが認められ、ブロナンセリンは比較的穏やかな曲線を描く薬剤群に含まれる可能性が示唆されています。
統合失調症患者の体重増加には、以下の要因が複合的に関与していることが知られています。
🔸 疾患自体の影響
🔸 環境要因
北海道大学の研究で示唆されているように、抗精神病薬による代謝変化は「疾患に関連した代謝異常」と「薬物による代謝異常」の両方が関与する複雑な病態です。
つまり、「ブロナンセリンのせいで太った」と思い込んでいる患者の体重増加が、実際には疾患の進行や生活習慣の変化に起因しているケースも少なくありません。
この事実を医療従事者が理解しておくことは、患者指導において極めて重要です。単に「薬を替ましょう」ではなく、総合的なアプローチ(栄養指導、運動療法、生活リズム改善、疾患管理)を組み合わせることで、より効果的な体重管理が可能になります。
さらに、2025年の最新研究では、抗精神病薬が視床下部のAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)経路に作用し、食欲増加と脂肪組織での熱産生減少を同時に引き起こす可能性が指摘されています。 この知見は、従来の「食欲亢進だけが原因」という単純な理解を超え、より精緻な代謝調節メカニズムの解明につながると期待されています。
Comparative Effects of 11 Antipsychotics on Weight Gain and Metabolic Function - 用量反応メタ解析(英語)