
ベルソムラ(一般名スボレキサント)とデエビゴ(一般名レンボレキサント)は、いずれもオレキシン受容体拮抗薬(DORA)に分類される新しいタイプの睡眠薬です。
参考)デエビゴとベルソムラの違いを徹底比較|どっちが強い?併用や切…
ベルソムラは2014年に発売され、10・15・20mg製剤があり、デエビゴは2020年に発売され2.5・5・10mg製剤が用意されているため、用量調整の自由度という点でデエビゴを使いやすいと評価する報告もあります。
オレキシン受容体にはOX1RとOX2Rの2種類があり、ベルソムラはOX1RとOX2Rをほぼ同程度に阻害するのに対し、デエビゴはOX2Rに対する選択性が高いことが知られています。
参考)https://at-doctor.com/public/announcements/detail/808/0
OX1Rは主にレム睡眠の抑制に関わり、OX2Rはノンレム睡眠の制御に関与するとされるため、両薬剤の受容体選択性の違いが睡眠構築や悪夢発現のプロファイルに影響している可能性があります。
参考)https://doctor-matsuri.com/1468/
また、デエビゴは半減期が約55時間と長く、ベルソムラの約10〜12時間と比べて残存性が高い一方で、中途覚醒や早朝覚醒に対する有効性が高いという実臨床での評価も散見されます。
ベルソムラとデエビゴが「悪夢」と関連づけて語られる背景には、オレキシン系を抑制することでレム睡眠の割合が変化し、夢の内容がより鮮明に記憶されやすくなるという仮説があります。
参考)睡眠薬服用での悪夢-デエビゴやベルソムラで悪夢を見る理由 │…
一般に夢はレム睡眠・ノンレム睡眠の双方で見られますが、記憶に残りやすいのは浅いレム睡眠中の夢であり、レム睡眠の増加や構造変化は「夢をよく見る」「悪夢が増えた」という主観的訴えにつながりやすいと説明されています。
デエビゴはOX1RとOX2Rをともに拮抗するものの、OX2Rへの選択性が高く、ノンレム睡眠への影響を通して睡眠維持効果が得られる一方、ベルソムラはOX1Rも強く抑えるためレム睡眠の制御に直接関与しやすく、悪夢の訴えが目立ちやすいと考察されることがあります。
興味深い点として、オレキシン受容体拮抗薬による睡眠は、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬と比べ、深睡眠(ノンレム睡眠3)やレム睡眠を過度に抑制せず、生理的な睡眠構造に近いとする報告が増えています。
参考)次世代睡眠薬の特徴 - 佐藤病院(精神科・内科)
そのため、「悪夢が増える」ことは一見ネガティブに捉えられますが、裏を返せば睡眠時間やレム睡眠が適切に確保された結果として夢の記憶が増えた、という解釈も可能であり、患者説明の際にはこの視点を共有することで不安軽減に役立ちます。
公表されているデータでは、ベルソムラ・デエビゴともに「悪夢」や「異常な夢」は添付文書上の精神系副作用として1〜数%程度の頻度で報告されていますが、両薬剤間で大きな差はないとするまとめもあります。
一方、精神科医の臨床ブログなどでは、ベルソムラに比べてデエビゴの方が悪夢の訴えが減ったという実感が述べられており、この差は受容体選択性や個々の症例背景(不安・抑うつの合併、既往の夢の質など)が影響している可能性があります。
実務的には、ベルソムラで「寝つきは良いが悪夢がつらい」と訴える患者に対し、同じオレキシン受容体拮抗薬であるデエビゴへスイッチすると、睡眠維持を保ちながら悪夢の頻度や不快感が和らぐケースがあると報告されています。
副作用全体で見ると、デエビゴでは傾眠・頭痛・めまいのほかに、1〜3%程度の頻度で異常な夢・悪夢が記載されており、ベルソムラでも同程度の頻度が示されていますが、実際の患者の受け止め方は「悪夢」というラベルの有無よりも、夢の鮮明さや感情の強度に左右されます。
参考)ベルソムラの効果・副作用を医師が解説【デエビゴとの違い・15…
また、悪夢のリスクは薬剤単独ではなく、ストレス負荷、PTSD・うつ病・不安障害などの併存、アルコールやカフェイン摂取、睡眠時無呼吸や周期性四肢運動障害などの睡眠障害の影響を強く受けるため、睡眠薬の変更だけでなく背景因子への介入も重要です。
特筆すべき点として、「悪夢を訴えた患者は、薬そのものが悪夢を“見せている”のではなく、レム睡眠の増加により夢の記憶が残りやすくなっている可能性がある」と説明すると納得度が高く、不必要な中止や過度な不安を防ぎやすいという現場の工夫が紹介されています。
実臨床では、ベルソムラはOX1R・OX2Rバランスの取れた拮抗薬として、レム睡眠の調整を含めた全体的な睡眠質の改善を狙う場面で選択される一方、デエビゴはOX2R選択性の高さと長めの半減期から、入眠困難に加えて中途覚醒・早朝覚醒が目立つ症例に用いられることが多いとされています。
医療従事者向けには、「悪夢」は添付文書上の副作用でありつつ、必ずしも中止を要する有害事象ではなく、患者本人の苦痛度と睡眠全体の質を評価しながら、用量調整・睡眠衛生指導・精神症状の評価を組み合わせる必要があると整理しておくことが実務的です。
例えば、ベルソムラで悪夢が問題となった場合、まず就寝前の刺激(ホラー映画・SNS・ニュース閲覧など)やアルコール摂取の有無を確認し、それでも改善しない場合にデエビゴへのスイッチや用量減量を検討する、といったステップを踏むことで、安易な薬剤中止を避けられます。
患者説明の場面では、次のようなポイントが実用的です。
さらに、併用薬との相互作用も使い分けの重要な要素です。ベルソムラ・デエビゴはいずれもCYP3A4で代謝されるため、マクロライド系抗菌薬、ベラパミル、ジルチアゼムなどとの併用時には用量調整や禁忌があり、ベルソムラは一部マクロライド系と禁忌、デエビゴは減量で対応可能といった違いが整理されています。
つまり、悪夢を単なる副作用として排除するのではなく、「患者のこころの状態を映し出すスクリーン」として丁寧に問診することで、これまで見逃されていた不安・抑うつ・トラウマ体験に気付く契機になり得るという発想です。
この観点に立つと、ベルソムラからデエビゴへのスイッチで悪夢が減少した場合も、「薬を変えて終わり」ではなく、なぜそのタイミングで悪夢が強く印象に残るようになったのか、生活環境・ストレス要因・対人関係の変化などを総合的に振り返ることが、患者の長期的な睡眠・メンタルヘルスの安定に寄与する可能性があります。
将来的には、OX1R・OX2Rそれぞれへの選択性や個別の睡眠構築パターンに応じて、よりパーソナライズされた睡眠薬の選択が行われると期待されています。
同時に、ウェアラブル端末や在宅ポリソムノグラフィーによって、ベルソムラ・デエビゴ服用時のレム睡眠・ノンレム睡眠の変化や悪夢との関連を客観的にモニタリングする試みが進めば、「悪夢」をめぐる議論は単なる主観報告から、定量的な睡眠医学のテーマへと進化していくでしょう。
医療従事者としては、現時点の知見と添付文書情報を踏まえつつ、「ベルソムラとデエビゴの違い」と「悪夢」をセットで理解し、薬理学・睡眠生理・患者心理をつなぐ視点で診療に活かしていくことが求められています。
悪夢を含む副作用プロファイルと実臨床での使い分けの目安を押さえるには、クリニックが公開している比較記事が具体的です。
デエビゴとベルソムラの違い(作用時間・副作用・薬価などの比較)
悪夢のメカニズムや患者説明の工夫を知りたい場合には、デエビゴによる悪夢をテーマにした解説記事が参考になります。
医療従事者として、ベルソムラ/デエビゴのどちらを「第一選択」に置くかを決める際、あなたの現場では最も重視しているポイントは何でしょうか?
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