
中心静脈栄養(TPN)施行において最も頻度が高く、重篤化しやすいのがカテーテル関連の合併症です。これらは大きく「機械的合併症」と「感染的合併症」に分類されます。
参考)Chapter3 静脈栄養 2.14 TPNの合併症|PDN…
機械的合併症の具体例:
参考)中心静脈栄養(TPN)の看護|目的、適応・禁忌、手順・介助、…
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/glhyd_2013/02_05.pdf
カテーテル関連感染症(CRBSI)の発生機序:
TPN 溶液は高濃度のグルコース、アミノ酸、脂肪乳剤を含むため、細菌の増殖に極めて好適な環境です。感染経路は主に3つ:
参考)https://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/home/hp-infect/file/ictmon/ictmon086.pdf
特に「closed system の堅持」が感染予防の最重要ポイントです。I-システム(I-プラグとI-セット)の導入や、一体化輸液ラインの使用で回路接続工程を最小限に抑えることが推奨されます。
カテーテル敗血症の特徴は「他にたいした症状を伴わない急な発熱」です。毎日の刺入部観察と、発熱時の早期対応(血液培養、カテーテル先端培養、必要に応じたカテーテル抜去)が不可欠です。
参考)Chapter3 静脈栄養 2.13 TPN の実際の投与方…
日本静脈経腸栄養学会 TPNの合併症 詳細解説
高血糖の発生機序と対策:
手術や感染症などの侵襲下では、ストレスホルモン(コルチゾール、カテコラミン、成長ホルモン)の分泌により耐糖能が低下します(外科的糖尿)。この状態で高濃度糖質を投与すると容易に高血糖を惹起します。
低血糖の危険性:
TPN 施行中は相対的高インスリン状態にあります。TPN を急に中止すると、インスリンが残り血糖値が急激に低下し、低血糖状態を惹起しやすくなります。
予防策:
電解質異常の頻度:
低リン血症は「再給糧症候群」の主要所見の一つで、高度の栄養障害患者で TPN 開始後比較的早期に発症し、多彩な神経症状(意識障害、筋力低下、呼吸不全など)を呈することがあります。
長期 TPN 施行患者で問題となるのが肝胆道系合併症です。特に「肝内胆汁うっ滞」と「脂肪肝」は頻度が高く、長期化すると肝硬変に進展するリスクもあります。
参考)[Multicenter study on incidenc…
肝内胆汁うっ滞の発生機序:
絶食に加えて高濃度の糖質を経静脈的に投与することによって惹起されます。血清トランスアミナーゼと胆道系酵素の上昇、それに引き続く直接型ビリルビンの上昇が認められます。
TPN 開始後、比較的早期に起こる場合は一過性のこともありますが、持続する場合には以下の対策を検討します:
脂肪肝の発生要因:
長期絶食を伴った TPN 施行患者では、糖の過剰投与や必須脂肪酸欠乏などが原因で脂肪肝を併発することがあります。
必須脂肪酸欠乏症の予防:
3〜4 週間以上の無脂肪 TPN を施行すると発症することが多いです。リノール酸などの必須脂肪酸を多く含む脂肪乳剤を、投与エネルギーの 10〜30%を目安に投与する必要があります。
また、経口摂取が少ないことで胆嚢の収縮刺激が減少し、胆石症や胆嚢炎のリスクも増加します。可能な限り経腸栄養の併用が推奨されます。
ここであまり注目されていない意外な視点として、「腸管を使わないことによる合併症」について深掘りします。TPN の最大の弱点は「消化管を不使用にすること」です。
参考)Chapter2 経腸栄養 1.経腸栄養の特徴と適応|PDN…
腸管粘膜萎縮のメカニズム:
絶食で静脈栄養時、腸管を使用しないため、腸管粘膜に一種の「廃用萎縮」が起こります。小腸の微絨毛の高さは低くなり、粘膜が萎縮します。
この萎縮は、動物実験では明確に確認されており、ヒトでも長期間の TPN 施行では「必発」とされています。
bacterial translocation(細菌転移)の危険性:
腸粘膜が萎縮すると、そのバリア機能が失われ、「bacterial translocation」が起こると考えられています。
参考)「障害者リハビリテーション」入門(19) 小腸機能障害
結果として、以下の重篤な合併症を引き起こす可能性があります:
予防の鍵は「経腸栄養の併用」:
経腸栄養療法の利点として、腸管粘膜の維持(萎縮の予防)、免疫能の維持、bacterial translocation の回避が挙げられます。
多くのデータから、早期経腸栄養を行った症例は TPN 症例に比較し、感染性合併症が約 5 割程度少なくなると考えられてきました。
「可能なら TPN より経腸栄養が推奨される所以」は、この腸管バリア機能の維持にあります。
臨床的示唆:
「腸管が使えるなら、少しでも経腸栄養を」という原則は、単に栄養学的な観点だけでなく、免疫学的・感染予防の観点からも極めて重要です。短腸症候群などでやむを得ず長期 TPN が必要な場合でも、可能な範囲で経腸栄養を併用することが、bacterial translocation 予防に繋がります。
短腸症候群と TPN 合併症 患者向け解説(医療者にも有用)
最後に、見落とされがちですが重篤な合併症として「ビタミン B1(チアミン)欠乏」について解説します。
参考)栄養法の基礎知識 NS | 国立長寿医療研究センター
ビタミン B1 欠乏の病態:
clinical presentation:
高リスク患者:
予防策:
重症の乳酸アシドーシスを回避するために、TPN 施行時は「早期より総合ビタミン製剤の投与」が勧められます。
特に、高濃度の糖質を投与する前に、必ずビタミン B1 を補充しておくことが重要です。糖質負荷前にビタミン B1 が不足していると、急速に欠乏症状が出現します。
教訓:
国立長寿医療研究センター 栄養法の基礎知識 TPNの注意点