
糖質コルチコイドの代表であるコルチゾールは、副腎皮質の束状帯で産生されるステロイドホルモンです。 このホルモンの最も基本的な作用として、代謝促進が挙げられます。具体的には、肝臓での糖新生(Gluconeogenesis)を促進し、血糖値を上昇させる働きがあります。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00942.html
代謝促進のメカニズムを詳しく見ていきましょう。まず、筋肉ではタンパク質の分解を促進し、血液中へアミノ酸の放出を促します。 脂肪組織では中性脂肪の分解を促進し、グリセリンと脂肪酸を血液中へ放出させます。 これらのアミノ酸とグリセリンが肝臓へ運ばれ、糖新生の材料となり、グルコースが作られることで血糖値が上昇します。
参考)副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド・コルチゾールの作用) -…
さらに、糖質コルチコイドには末梢組織でのグルコース取り込みを抑制する作用もあるため、この点でも血糖値上昇に寄与しています。 12時間絶食しても血糖値を維持できるのは、この糖質コルチコイドの作用のおかげです。
参考)看護師国家試験 合格対策|糖質コルチコイドとミネラルコルチコ…
覚え方のポイントとして、「糖質コルチコイド=血糖値を上げるホルモン」とシンプルに理解すると、代謝促進作用全体を把握しやすくなります。ストレスホルモンとしての側面も強く、身体的・精神的ストレスを受けると副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌が亢進し、糖質コルチコイドの分泌が増加して抗ストレス作用を発揮します。
糖質コルチコイドの臨床で最も重要な作用の一つが、抗炎症作用と免疫抑制作用です。外傷、感染、リウマチ等による組織の炎症反応はグルココルチコイドによって抑制されます。
抗炎症作用の機序は多岐にわたります。まず、蛋白分解酵素を含んだライソゾーム顆粒膜の安定化により、炎症性物質の放出を抑制します。 次に、毛細血管壁の透過性を低下させ、炎症部位への血漿成分の漏出を防ぎます。さらに、炎症組織への白血球浸潤を抑制することで、炎症反応そのものを抑制します。
細胞レベルでの作用機序を詳しく見ると、ステロイドは拡散により細胞膜を通過後、細胞質に存在するステロイド受容体と結合します。 ステロイドが受容体に結合するとステロイド受容体複合体を形成し、この複合体は核内に移行してmRNA合成、タンパク質合成過程を促進します。
参考)http://www.gakkenshoin.co.jp/book/ISBN978-4-7624-2664-3/03.pdf
ここで誘導される抗炎症タンパク質はホスホリパーゼA2抑制作用をもつため、アラキドン酸遊離抑制作用を発現します。 炎症性サイトカイン、ケモカイン、接着因子などの産生を阻害し、白血球の接着・遊走を抑制します。 また、肉芽組織形成抑制作用もあり、線維芽細胞によるコラーゲンなどのタンパク質合成を阻害するばかりでなく、線維芽細胞自体の増殖も阻害します。
免疫抑制作用については、細胞が何らかの障害を受けた時に脂肪細胞から放出されるヒスタミンを抑制します。 これにより、アレルギー反応や免疫反応を抑制する効果が得られます。
参考)内分泌シリーズ第6回「副腎皮質ホルモン3 糖質コルチコイド」…
臨床応用では、プレドニゾロンなどのステロイド薬として使用される際に、この抗炎症作用と免疫抑制作用が重要な役割を果たします。 糖質コルチコイド(抗炎症作用):鉱質コルチコイド(アルドステロン作用)の比率は製剤によって異なり、デキサメタゾンでは25:0.01、ヒドロコルチゾンでは1:1、プレドニゾロンでは4:0.8となっています。
参考)副腎皮質ステロイド3種類ポイントまとめ【覚え方・ゴロ】CBT…
糖質コルチコイドの長期使用で最も注意すべき副作用が、骨粗鬆症です。グルココルチコイドは骨を形成する骨細胞を殺してしまい、3ヶ月以上使用すると、骨粗鬆症を引き起こします。 「ステロイド」の最多の副作用で、30-50%に脊椎、大腿骨、橈骨などの骨折を生じ、痛くて日常生活が送れなくなり、寝たきりになる方もいます。
参考)一般の方へ
骨代謝への影響の機序を詳しく説明します。合成グルココルチコイド(ステロイド薬)による骨代謝異常症はグルココルチコイド誘発性骨粗鬆症と呼ばれます。 骨代謝では骨細胞にアポトーシスを誘導して顕著な骨粗鬆化をもたらしますが、処方された薬剤により生じた副作用であり、処方医が管理すべき疾患です。
参考)https://mol.medicalonline.jp/newbunken?GoodsID=fj2ortho/2025/009904/010&name=0249-0257j
日本骨代謝学会で公表した『グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023』では、本薬剤使用予定および使用中で、危険因子があれば、ビスホスホネート、抗RANKL(receptor activator of NF-κB ligand)抗体、テリパラチド、エルデカルシトール、またはSERM(selective estrogen receptor modulator)の使用が推奨されています。
特に、高齢者では骨折管理のためにグルココルチコイド投与と同時に治療薬介入が推奨されます。 年齢、性、人種に関係なく生じ、骨の質が悪化し、骨密度が正常でも骨折します。 日本人では、1日にプレドニゾロン1mgの使用でも、骨折率が有意に増えることが報告されました。
危険因子が3点以上の方は、薬物治療の開始が推奨されます。65歳以上の方、または、プレドニゾロン7.5mg以上使用する方は、それだけで3点以上になりますので、骨密度を測定しなくても、グルココルチコイド使用と同時に、骨粗鬆症治療を開始する必要があります。
覚え方のポイントとして、「3ヶ月以上のステロイド使用=骨粗鬆症リスク」と関連付けると、臨床現場で重要な警戒点を忘れずに済みます。一方、的確な管理と治療によって、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症やそれに伴う骨折を抑えることが可能で、ビスホスホネートの適切な使用で、骨折を90%減らすことが可能です。
糖質コルチコイドの重要な作用として、抗ストレス作用と許容作用があります。コルチゾールは肉体・精神・生理的ストレスに抗するためのホルモンで、怪我や手術、不安や恐怖といった感情、寒さや睡眠不足など、あらゆる種類のストレスに対する耐性を上昇させるホルモンです。
抗ストレス作用の機序は、ストレスを受けた時に支障があるから闘う体の準備をしているということです。 血糖値を上げてエネルギー源を作り出し、炎症や痛みを抑え、ストレス耐性を強化し、精神を安定させるという一連の作用があります。
精神機能への影響も重要で、糖質コルチコイドは気分や認知機能にも影響します。 糖質コルチコイドが不足すると、うつ状態になったり食欲の減退なども生じます。 逆に分泌が多すぎると、多幸感や活動性が上がると言われています。
許容作用とは、他のホルモンの作用を可能にする効果で、糖質コルチコイドが不足するとカテコラミンなどの他のホルモンの作用が十分発揮されなくなります。これは臨床的に重要な点で、ショック状態などの緊急時に糖質コルチコイドの補充が必要となる理由の一つです。
覚え方のポイントとして、「糖質コルチコイド=ストレスホルモンの王様」とイメージすると、抗ストレス作用と許容作用の両方を包括的に理解できます。副腎皮質機能低下症(アジソン病)では糖質コルチコイドが不足し、ストレスに対する耐性が著しく低下するため、ちょっとしたストレスでも生命の危険が生じることがあります。
ここからは、検索上位には載っていない独自視点の覚え方として、臨床現場で役立つゴロ合わせと、薬剤師国家試験で頻出のポイントを紹介します。
副腎皮質ステロイド3種類のゴロ:「出来のひどいプレー」
このゴロで、各製剤の特徴を同時に覚えられます。デキサメタゾンは抗炎症作用が最も強く、鉱質コルチコイド作用がほとんどないため、負荷試験や強力な抗炎症作用が必要な場合に使用されます。 ヒドロコルチゾンは糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドのバランスが1:1で、副腎皮質機能低下症の補充療法に使われます。 プレドニゾロンは抗炎症作用(≒免疫抑制作用)を狙って使用され、関節リウマチや自己免疫疾患の治療で広く使われます。
糖質コルチコイドの7つの主要作用のゴロ:「糖タン脂免抗骨抗」
参考)ゴロ合わせで暗記
このゴロは、看護師国家試験で出題される内容を5つ抜粋したものです。 糖質コルチコイドの作用はいくつかありますが、看護師国家試験向けに覚えるのはこれら7つです。
参考)Instagram
意外な事実:糖質コルチコイドと認知機能
あまり知られていない事実として、糖質コルチコイドは脳機能にも直接的な影響を与えます。海馬には糖質コルチコイド受容体が高密度に存在し、長期にわたる高濃度の糖質コルチコイド曝露は、海馬の萎縮や記憶機能の低下を引き起こすことが報告されています。 これは、慢性ストレス状態や長期ステロイド治療患者で認知機能低下が見られる理由の一つです。
臨床応用での注意点
糖質コルチコイドは糖代謝、蛋白質代謝、脂質代謝、電解質代謝、血液成分の調整、神経系や循環器系、消化器系、内分泌系の制御、免疫・炎症抑制など多数の生理作用を持つため、使用時には多角的な副作用管理が必要です。
参考)副腎皮質ステロイド(糖質コルチコイド/鉱質コルチコイド)とは…
2020年には糖質コルチコイド製剤のデキサメタゾンが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬として認められ、重症患者の死亡率を低下させる効果が確認されました。 これは、糖質コルチコイドの強力な抗炎症作用が、COVID-19による過剰な免疫反応(サイトカインストーム)を抑制するためです。
グルココルチコイドの適応は慎重に判断し、原疾患の病態に応じて必要最小限の使用に限定し、適切に管理することが最重要です。 グルココルチコイドは骨粗鬆症のみならず多彩な副作用を生じ、感染症や心血管障害の明確な危険因子です。
参考:公益社団法人 日本薬学会 糖質コルチコイド - 基本的な定義と作用機序の詳細な説明
参考:日本骨代謝学会 グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症 - 骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインの詳細
参考:副腎皮質ステロイド3種類ポイントまとめ - 国家試験対策のゴロ合わせと製剤の特徴
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