
匿名化とは、個人情報から特定の個人を識別できる情報を完全に削除し、他のデータと照合しても元の個人を特定できない状態に加工する処理を指します。 この処理の最大の特徴は、対応表(元の個人情報と加工後のデータを紐付ける情報)を一切残さない点にあります。 つまり、データの作成者自身であっても、匿名化済みのデータから元の個人情報を復元することは技術的に不可能となります。
参考)匿名化とは?匿名加工情報との関係や仮名化・秘匿化との違い、各…
医療現場における匿名化の具体例としては、患者の氏名・生年月日・住所・電話番号などの直接識別子を完全に削除し、さらに他の情報(診療科・受診日・疾患名など)との組み合わせで個人を推測できる可能性を排除するために、年齢を「50代」のように幅を持たせたり、受診日を「2025年1月」のように月単位まで曖昧化したりする処理が挙げられます。
参考)匿名化とは?個人情報保護法に基づく手法や仮名化との違いを解説…
匿名化されたデータは、個人情報保護法上「匿名加工情報」として位置付けられ、非個人情報として扱われます。 このため、本人の同意を得ることなく第三者への提供が可能であり、学術研究や統計分析、マーケティングなど幅広い用途でのデータ活用が促進されます。
参考)個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(仮名加工情…
仮名化とは、氏名や住所などの個人を特定できる情報を、別の符号や番号(顧客ID、患者IDなど)に置き換える処理を指します。 この処理の最大の特徴は、対応表(元の個人情報と仮名化後のデータを紐付ける情報)を管理者が保有し続ける点にあります。 つまり、管理者が対応表を参照すれば、仮名化済みのデータから元の個人情報を復元することが技術的に可能です。
参考)【図解付き】仮名化と匿名化の違いとは?個人情報の安全な扱い方…
医療現場における仮名化の具体例としては、患者の氏名を「P001」「P002」のような患者IDに置き換える処理が挙げられます。 この場合、医療機関内部では患者IDと氏名の対応表を管理しており、必要に応じて「P001」が「山田太郎」さんであることを確認できます。 したがって、仮名化されたデータは、依然として個人情報保護法上「個人情報」に該当し、利用や提供には同法の規制が及びます。
参考)仮名化とは?匿名化との違いや法的な位置づけ、活用方法をわかり…
ただし、仮名化データ(仮名加工情報)には、通常の個人情報よりも緩やかなルールが設けられています。 例えば、データ漏洩時の報告義務や開示請求、利用停止の請求などの適用が除外される、利用目的を変更する際の手続きが簡素化されるなどのメリットがあります。
参考)https://www.tanii-law.jp/column/511750b9-2ecf-4ed4-b8ee-146e029af79f
個人情報保護法における匿名化と仮名化の最大の違いは、第三者提供の可否と本人同意の要否にあります。
参考)匿名加工情報と仮名加工情報の違いは?具体例をもとにわかりやす…
匿名化データ(匿名加工情報)は、以下の条件を満たすことで本人の同意なしに第三者提供が可能です。
参考)個人情報保護法の「匿名加工情報」とは?加工例・仮名加工情報と…
一方、仮名化データ(仮名加工情報)は、原則として第三者提供が禁止されています。 仮名化データは依然として「個人情報」に該当するため、本人の同意がない限り第三者に提供することはできません。 ただし、以下の例外があります。
ここで注意すべき意外な点は、2026年7月にフランスの個人情報保護当局CNILが医療データ企業IQVIAに500万ユーロの制裁金を科した事例です。 同社は「匿名データ」と主張していたデータを、CNILは「合理的手段で再識別可能な仮名化データ」と認定しました。 これは、多機能認証(MFA)の未導入やアクセス制御の不備により、追加情報と照合することで個人を再識別できる状態だったためです。 この事例は、匿名化と仮名化の境界線が技術的・組織的な管理状態に依存することを示しており、医療従事者にとって重要な教訓となります。
参考)「匿名化した」つもりが「仮名化」止まりだった|CNILがIQ…
医療データの研究利用において、匿名化と仮名化のどちらを選ぶべきかは、研究目的とデータ利活用の範囲によって異なります。
参考)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2201_03medical/220922/medical09_0102_07.pdf
多施設共同研究や外部機関とのデータ共有を前提とする場合、匿名化が必須となります。 匿名加工情報は、本人同意なしで第三者提供可能であるため、複数の医療機関や研究機関がデータを共有して大規模な統計分析を行う際に有効です。 ただし、匿名化には高度な技術と専門知識が求められます。 単に氏名を削除するだけでは不十分で、他の情報との組み合わせで個人を推測できる可能性(リンケージ攻撃)を排除するために、以下の技術的処理が必要です。
参考)Practical Data Privacy #読書感想文 …
一方、単一施設内での研究や、患者へのフォローアップが必要な研究(例:治験後の経過観察)では、仮名化が適しています。 仮名加工情報は、対応表を管理することで元の個人情報を復元可能であるため、患者への連絡や臨床的な追跡調査が可能です。
参考)仮名加工情報とは?匿名加工情報との違い・加工例を弁護士がわか…
日本の個人情報保護法に加え、欧州の一般データ保護規則(GDPR)における匿名化と仮名化の取扱いも理解しておく必要があります。
参考)【GDPR】匿名化と仮名化に関するガイダンス(アイルランドデ…
GDPRでは、匿名化されたデータは「個人データ」に該当せず、GDPRの適用対象外となります。 一方、仮名化されたデータは「個人データ」として扱われ、GDPRの規制が適用されます。 この点は日本の個人情報保護法と共通していますが、GDPRでは仮名化が「セキュリティ対策」として明確に位置付けられており、データ保護バイデザインの原則に沿った処理として推奨されています。
参考)https://gdpr-management.amebaownd.com/posts/8274632/
ここで医療従事者が知っておくべき意外な国際的動向として、アイルランドのデータ保護当局が2019年に公表した「匿名化と仮名化に関するガイダンス」があります。 このガイダンスでは、匿名化の判定基準として「すべての合理的手段を用いても再識別が不可能か」が強調されており、単なる技術的処理だけでなく、組織的な管理状態(アクセス制御、監査ログ、MFAの導入など)も評価対象となります。 これは、前述のIQVIA制裁事例にも反映されており、技術的匿名化だけでなく、組織的なセキュリティ対策が不十分だと「仮名化止まり」と認定されるリスクがあることを示しています。
また、PHUSE(Pharmaceutical Users Software Exchange)という国際的な製薬業界の団体が2021年に公表した用語整理では、匿名化(anonymization)、仮名化(pseudonymization)、非識別化(de-identification)の用語が明確に区別されており、国際共同研究を行う際にはこれらの用語の定義を共有することが不可欠です。
参考)PHUSEによる匿名化、仮名化、非識別化などの用語の整理
個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)」
匿名加工情報と仮名加工情報の法的定義、作成方法、第三者提供の要件、安全管理措置などが詳細に解説されています。
データ可視化ラボ「匿名化とは?匿名加工情報との関係や仮名化・秘匿化との違い」
匿名化、仮名化、秘匿化の違いを実務的な視点で解説し、第三者提供時の注意点や具体例がわかりやすく说明されています。
GXO「『匿名化した』つもりが『仮名化』止まりだった|CNILがIQVIAに500万ユーロ制裁」
2026年7月の最新事例として、匿名化と仮名化の境界線が技術的・組織的な管理状態に依存することを具体的に示しています。
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