医療従事者のスマホは、患者の個人情報や診療情報が含まれる「小さな金庫」のような存在です。 紛失や盗難、不正アクセスによって情報が漏洩すると、患者のプライバシー侵害だけでなく、病院の信頼失墜や法的責任にもつながります。
参考)情報漏洩リスクを最小にする スマートフォンの紛失対策:中小規…
2022年に発生した近畿大学病院の事例では、委託先企業の元社員が私用スマートフォンで電子カルテ画面を動画撮影し、SNSを通じて友人に送信する事案が発覚しました。 この事案では、患者の氏名、生年月日、診察記録が流出し、業務委託契約の終了や関係者の処分につながる深刻な結果となりました。
参考)医療機関の個人情報漏洩事件まとめ - Watchy(ウォッチ…
また、2024年には仙台市立病院で、職員が業務参考のために電子カルテを印刷したものをスマートフォンで撮影し、自身のインスタグラムに投稿した結果、患者の氏名とIDが写り込んだ状態で約1カ月間公開される事案が発生しています。
参考)仙台市立病院でSNS(インスタグラム)に投稿した患者カルテの…
これらの事例から、医療従事者におけるスマホのセキュリティ対策は、単なる「個人の習慣」ではなく、病院全体のリスクマネジメントとして重要な位置づけにあることがわかります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000845417.pdf

スマホのセキュリティ対策で最も基本かつ重要なのが、画面ロックの設定です。 パスコード、パターン、指紋認証、顔認証など、複数の認証手段を組み合わせることで、第三者による不正利用を効果的に防止できます。
参考)第433回 スマホの個人情報を守るために|女性の防犯・防災対…
画面ロック設定の重要性
推奨される認証設定
「面倒だから」という理由でパスコードを設定していない、または「1111」「9999」のように類推されやすい番号を設定しているケースは、セキュリティ上非常に危険です。 医療従事者として、個人情報の取り扱いに関わる端末であることを自覚し、強固な認証設定が必須となります。
参考リンク。
医療機関における携帯電話等の使用に関する指針(PMDA)- 医療機関内でのスマホ使用に関する基本的な指針が記載
OSやアプリの脆弱性は、マルウェア感染や不正アクセスの主要な侵入経路です。 2025年のフィッシング報告は245万件に達しており、スマホを狙った攻撃は増加傾向にあります。
参考)【リスク別】スマートフォンのセキュリティー対策|トラブルへの…
OS・アプリの最新化が重要な理由
具体的な対策手順
特に医療従事者は、患者情報にアクセスできる端末であることを認識し、一般ユーザー以上に厳しいセキュリティ意識を持つ必要があります。
二段階認証の仕組み
設定すべき主なサービス
パスワードのみの場合、世界中どこからでも攻撃を仕掛けることができますが、スマホなどの他の要素を加えることで、アカウントのハッキングが格段に難しくなります。 医療従事者は、患者情報にアクセスする可能性のあるすべてのアカウントで、二段階認証を有効にすることが推奨されます。
参考)Google/Gmailアカウントに2段階認証を設定すること…
二段階認証の主な方法
医療従事者特有の視点として、スマホの院内使用ルールとマナーの遵守が重要です。 総務省が公表した「医療機関における携帯電話等の使用に関する指針」では、患者・見舞客向けと医療従事者向けのルールが明確に区分されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/317_1.pdf
医療従事者向けエリア別使用ルール(指針の参考例)
| 場所 | 通話 | メール等 |
|---|---|---|
| 待合室 | ○ | ○ |
| 病室 | △ | ○ |
| 診察室 | × | △ |
| 手術室 | × | × |
※医療機器から1m離し、マナーに注意する
参考)https://www.soumu.go.jp/main_content/000353952.pdf
具体的な院内ルール
参考)https://www.meitetsu-hospital.jp/about/visit/pdf/phone_usage_regulations.pdf
参考)https://www.fuzoku-hosp.tokai.ac.jp/wordpress/wp-content/uploads/2025/04/20250411-67f9187562f8f.pdf
名古屋のメイテツ病院の事例では、エリアごとに詳細な使用ルールが設定されており、待合スペース、廊下・ロビー、診察室、検査室、病室などで使用可否が明確に区分されています。
個人情報・医療情報の保護
参考リンク。
総務省 医療機関における携帯電話使用指針の制定について - 医療機関内でのスマホ使用に関する詳細な指針とエリア別ルール
スマホを紛失・盗難した際の初動対応が、情報漏洩の拡大を防ぐ鍵となります。 位置情報サービス、遠隔ロック、遠隔消去などの機能を事前に設定しておくことで、万が一の事態にも迅速に対応できます。
紛失・盗難に備えた事前の設定
紛失に気付いた時の対応フロー
1. 位置情報サービスを使って端末を探す
2. 近くにない場合、すぐさま遠隔ロックを実行
3. 機密情報が格納されている場合は遠隔消去を検討
4. 病院のセキュリティ担当者に報告
注意点
医療機関のデバイス管理において、MDMを活用することで、情報漏洩の防止、不正アクセスの防止、端末管理の負担軽減などの効果が期待できます。 MDMにはAI分析機能が搭載されており、悪意のある攻撃の検知と対応を支援する機能も備えています。
参考)医療業界向けモバイル・デバイス管理(MDM) - IBM …
参考リンク。
外出先で気軽にインターネットに接続できるフリーWi-Fiは、便利であると同時に、通信内容の盗み見や不正アクセスのリスクを伴います。 医療従事者が患者情報にアクセスする端末であることを考えると、フリーWi-Fiの利用には特に注意が必要です。
フリーWi-Fiの主な危険性
安全な利用のための対策
参考リンク。
医療従事者は、カフェや駅などでフリーWi-Fiを利用する際にも、患者情報にアクセスする端末であることを常に意識し、セキュリティリスクを最小限に抑えるよう心がける必要があります。
万が一、スマホから個人情報が漏洩してしまった場合は、できるだけ早く対応することが被害拡大を防ぎます。 以下の手順を参考に、落ち着いて対処しましょう。
情報漏洩発生時の対応手順
1. クレジットカードや銀行口座の利用履歴をチェック
- カード会社や銀行に連絡し、利用停止などの対応を依頼
- 身に覚えのない決済や送金がないかを確認
2. IDやパスワードをすべて変更する
- すべてのアカウントの情報を見直し、強固なパスワードに変更
- SNSやショッピング、金融系などのアカウントで、同じIDやパスワードを使い回していた場合は特に注意
3. スマホのログイン履歴やアクセス記録を確認する
- 各サービスの「最終ログイン日時」や「ログイン履歴」を確認
- 第三者による不正アクセスの有無をチェック
4. セキュリティ対策サービスの通知を確認する
- 個人情報の流出を検知するサービスに登録している場合は、通知内容をすぐに確認
- 被害の範囲を把握し、必要な対応を講じる
5. 病院のセキュリティ担当者または管理者に報告
- 患者情報が関与する場合は、速やかに報告し、適切な対応を協議
- 個人情報保護委員会や関係機関への報告が必要な場合も
参考リンク。
データから分かる漏えい事故(看護師・看護学生のための情報倫理)- 2019年以降の医療機関・医療者による個人情報漏えい事故の統計データ
不審なメールやSMSに注意するなど、スマホ利用の基本的な備えが大切です。 セキュリティ対策ソフトを導入するなども、事前の備えのひとつとして検討しましょう。
最後に、医療従事者が実践すべきセキュリティ対策を、実務レベルのチェックリストとしてまとめます。
日常のセキュリティチェックリスト
院内での使用ルール
紛失・盗難への備え
定期的な見直し
医療従事者として、患者の個人情報や診療情報を守る責任を自覚し、セキュリティ対策を徹底することが求められます。 日々の習慣として上記のチェックリストを実践し、安全なスマホ利用を心がけましょう。
参考)看護師・看護学生のための情報倫理 - スマートフォンの利用
参考リンク。
厚生労働省 医療機関のサイバーセキュリティ対策チェックリスト - 医療機関向けのサイバーセキュリティ対策の詳細なチェックリスト
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