
犬の急性膵炎は、膵臓に急激な炎症が生じることで引き起こされる疾患です。初期段階では食欲が徐々に減退し、いつもよりも食べる量が少なくなるといった変化が見られます。 元気がなく、散歩に行こうとしない様子や、普段好きだったおもちゃに興味を示さなくなるといった症状が現れることがあります。
参考)わんちゃんライフ
病状が進行すると、特徴的な症状がより明確に現れてきます。代表的なのは嘔吐で、単に少し戻すというレベルではなく、食べたものを勢いよく吐いてしまうことが多く見られます。 嘔吐は頻繁に起こり、時には水や自分の唾液さえ吐いてしまうこともあります。
下痢も頻繁に見られる消化器症状の一つです。 軟便から水様便まで症状の程度は様々で、重症例では血便が混じることもあります。これらの消化器症状により、脱水症状が進行しやすくなります。
急性膵炎の主な症状は以下の通りです:
お腹の痛みが強い場合、犬は丸まってうなったり、静かに動かずにいる様子が見られます。 痛みのあるお腹を刺激しないようにと、お腹を床に付けずにお尻を突き上げるような独特の姿勢を取ることもあります。 この姿勢は「祈りの姿勢」とも呼ばれ、犬が腹部の痛みを和らげようとする自然な反応です。
参考)急性膵炎 / 犬の病気|JBVP-日本臨床獣医学フォーラム
急性膵炎の診断は、症状が他の病気と重なることが多いため、非常に難しいとされています。 犬は痛みを隠すことが得意な動物であり、症状が明確になる前に病気が進行しているケースも少なくありません。
参考)実は診断が難しい!?犬の急性膵炎の症状と診断について – 湘…
初期のサインとして、食欲が少しずつ減っていることに気づく飼い主さんが多いですが、これは季節の変わり目やストレスによる一時的なものだと見過ごされることがあります。しかし、2〜3日続けて食欲がない場合、あるいは好物に対しても反応が鈍い場合は注意が必要です。
体重の変化も重要な指標です。急性膵炎になると、嘔吐や下痢による脱水、そして食欲不振により、短期間で体重が減少します。 定期的な体重測定により、1〜2%の体重減少でも早期に気づくことができます。
触診時の反応も重要なチェックポイントです。お腹を優しく触った時に、普段は嫌がらないのに急に嫌がる、あるいは唸るような声を出す場合は、腹部に痛みがある可能性があります。 抱っこをした時に、お腹を圧迫されることを嫌がって逃げようとする仕草も注意が必要です。
意外な初期サインとして、呼吸の変化があります。膵炎による痛みや炎症反応により、呼吸が浅く速くなることがあります。 安静時の呼吸数が1分間に30回を超える場合は、注意深く観察する必要があります。また、口を半開きにしてハァハァとパンティング(あえぎ呼吸)をしている場合も、痛みや苦痛のサインである可能性があります。
ショック症状が現れることがあり、血圧が低下して循環不全を起こします。 呼吸がかなり苦しくなってゼイゼイといったり、いかにも苦しそうにしているといった状態が見られた場合、特に注意が必要です。 この状態は呼吸困難につながる可能性があり、早期の酸素投与などの対応が必要となります。
黄疸が出現することがあります。 白目や歯茎が黄色く見える黄疸は、膵炎による胆管の圧迫や炎症の波及により、胆汁の流れが妨げられることで起こります。 尿の色が濃くなる(濃茶色)ことも黄疸のサインです。
重症化すると尿毒症などの重い症状が出るケースも認められます。 腎機能が低下することで、老廃物の排泄が妨げられ、全身に毒素が蓄積します。この状態になると、昏睡状態に陥ることもあり、致命的なものです。
急性膵炎の重症度評価にはCAPSスコアが用いられます:
これらの項目を評価し、0〜1点の場合は軽度で予後良好、2点以上の場合は重症急性膵炎の可能性が高く、死亡率が増加するとされています。 研究によると、これらの4つの指標を組み合わせることで、高い感度と特異度で1か月以内に死亡するかどうかを予測可能であることが明らかとなっています。
参考)犬の急性膵炎の重症度評価と治療について|重症度評価篇 – 湘…
急性膵炎の診断は、臨床症状とともに血液検査や画像検査を組み合わせて行われます。診断基準としては、少なくとも嘔吐、食欲不振、腹部痛、元気消失のうち、2つの臨床症状が認められることが必要です。
血液検査では、特にLIP(リパーゼ)の値が膵炎の指標となります。 膵臓から分泌される消化酵素であるリパーゼが、炎症により血液中に漏れ出すことで値が上昇します。 しかし、一般的なリパーゼ値だけでは他の疾患でも上昇することがあるため、より特異的な検査が必要です。
診断的な検査として、犬特異的膵リパーゼ(c-PLI)という項目の血液検査を外部機関に依頼して測定します。 Spec cPL(犬特異的膵リパーゼ)が400μg/Lを超える場合は、急性膵炎と診断されます。 200〜400μg/Lの範囲で、SNAP cPLの rapide 検査の結果が異常で、急性膵炎に合致するエコー所見がある場合も診断されます。
診断に必要な検査項目は以下の通りです:
急性膵炎の発症には、遺伝的な要因が関与していることが知られていますが、この点についてはあまり注目されていません。ミニチュアシュナウザーなど特定の犬種では、遺伝的に脂肪代謝異常があるため、膵炎が起こることがあります。 これは、脂質を正常に代謝する酵素の遺伝的欠損によるもので、高脂肪食を摂取していなくても発症するリスクがあります。
ヨークシャー・テリア、スパニエル系、プードルなどの犬種も、膵炎の発症リスクが高いとされています。これらの犬種では、脂質代謝酵素の遺伝的変異や、膵臓の構造的特徴が関与していると考えられています。中年から老年の肥満犬に発生が多いことも特徴です。
栄養不良や飢餓時に急にものを食べ出すことにより急に起こることがあります。 絶食状態が続いた後に、特に高脂肪の食事を急激に摂取すると、膵臓が対応できずに炎症を起こすことがあります。これは「再給餌症候群」に類似した現象で、膵臓の酵素分泌が過剰になることで自己消化が始まります。
遺伝的リスクがある犬種では、以下の点に特に注意が必要です。
急性膵炎治療における治療のメインは点滴です。 嘔吐や下痢による脱水と循環血液量の減少(血液量減少症)を呈することが多くみられ、膵臓は特に血液量減少に敏感な臓器です。 失われた水や電解質を点滴で補給することが重要で、これにより膵臓への血流が改善し、炎症の悪化を防ぐことができます。
参考)犬の急性膵炎の重症度評価と治療について|治療篇 – 湘南ルア…
入院治療が必要となるケースが多く、急性膵炎にかかると、多くの場合、入院して治療を受けることになります。 嘔吐が続く、食べられない、または食べようとしない場合は、流動食を与えて、治癒のプロセスをサポートするために、栄養チューブを入れることをお勧めします。
参考)https://www.purinainstitute.com/ja/centresquare/therapeutic-nutrition/canine-acute-pancreatitis
疼痛管理も重要な治療の柱です。 急性膵炎では強い腹痛を伴うため、適切な鎮痛薬の投与が必要です。マロピタントというお薬が使用でき、強力な吐き気止めとして効果を発揮してくれます。 吐き気止めは、嘔吐を抑制することで脱水の悪化を防ぎ、経口摂取の早期開始を可能にします。
参考)急性膵炎 ─ 犬と猫で「ここが違う」管理の実際|VetEvi…
急性膵炎の影響で食欲の低下や嘔吐があるはずなので、吐き気止めを使いつつ、食事の補助を行います。 経腸栄養を早期(膵炎診断後 48 時間以内)に開始することは、急性膵炎の犬の転帰に良い影響をもたらす可能性があります。 従来の「絶食して膵臓を休ませる」という概念は、エビデンスにより否定されつつあります。
食事は3-4日(あるいはそれ以上)止めて、膵臓を休ませながら炎症が治って行くようにしむけることがあります。 しかし、現在では早期の経腸栄養が推奨されており、嘔吐がなくなって1-2日たったら水を口から与え始め、次いででんぷん質(ごはん、パスタ、ポテト)から与えます。
膵炎は再発しやすい病気です。 特に一度膵炎になった犬は再発しやすいため、日頃の食事管理・体調チェックが何よりの予防になります。 膵臓が一度ダメージを受けると回復に時間がかかり、機能が完全には戻らず、再び炎症を起こしやすくなります。
参考)https://koshigayavet.jp/wp/blog/3045/
膵炎の再発を防ぐ食事管理のポイント:
で順調ならば低脂肪食を与え始めますが、再発がみられることもあるのでその場合はまた食止めに戻ることがあります。 療法食の中には「膵炎・脂質制限専用フード」があります。獣医師の指導のもと、長期的に継続できる食事内容を選ぶことが重要です。
参考)犬の膵炎は再発しやすい?予防のための食事と生活管理 – 湘南…
肥満は膵炎再発の大きなリスク因子です。 定期的に体重を測り、理想体重の±5%以内をキープできるようにしましょう。 散歩や軽い運動も無理のない範囲で続けることが大切です。
急性膵炎では発症から48時間までに治療を開始できるかが予後に大きく関わります。 早期の治療は重症化せずに治療できる可能性が上がります。 完治すれば繰り返したり後遺症が出ることも減りますので、できるだけ早く治療を始められるようにしましょう。
重症化した2割は死亡する危険な病気です。 重症急性膵炎では、多臓器不全やDICなどの合併症により死亡率が高まります。 通常は自分で直って行くものであるが、どんどん悪化するものでは輸血も行うことがあります。 さらにショックに対する治療も行われます。
治療後に糖尿病や膵外分泌不全などの大きな病気が続発することがあります。 膵臓の機能が永続的に低下することで、インスリンの分泌が不足し、糖尿病を発症するリスクがあります。また、消化酵素の分泌が不足することで、栄養吸収障害が起こることもあります。
再発を疑うサインは次の通りです:
これらの症状が見られたら、早めに動物病院を受診してください。 再発した膵炎は、放置すると重症化しやすい傾向があります。 定期的な健康チェックとして、血液検査や画像検査を受けることで、症状が出る前に異常を察知できることがあります。
慢性膵炎の場合は、消化酵素の補充や肝胆系サポートが必要になることもあります。 獣医師の指導のもとで定期的なモニタリングを続けましょう。 膵炎の再発予防は「毎日の積み重ね」であり、日々の食事と生活管理が最大の予防策です。
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