
過重労働による脳・心臓疾患の労災認定において、最も注目されるのが「過労死ライン」と呼ばれる基準です。 この基準は、発症前の労働時間の長さによって、業務と発症との関連性を評価するものです。
具体的には、以下のいずれかの条件を満たすと、業務と発症との関連性が強いと評価されます。
参考)20年ぶりに見直された脳・心疾患の労災認定基準は? 新しい基…
参考)和歌山労働局|各種法令・制度・手続き|法令・制度|労災保険関…
この「おおむね100時間」「おおむね80時間」という表現は、あくまで一つの目安であり、これに満たない場合でも他の負荷要因を総合的に判断して認定されることがあります。
参考)https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2021/12/036-038.pdf
また、2021年の改正により、労働時間以外の負荷要因もより重視されるようになりました。 具体的には、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務、深夜勤務、出張の多い業務、交替制勤務、心理的緊張を伴う業務などが考慮されます。
過重労働を防止するための法的枠組みとして重要なのが、労働基準法第36条に基づく「36協定」と時間外労働の上限規制です。
参考)過重労働の基準と罰則は?36協定・上限規制について解説
2019年4月に施行された改正労働基準法により、時間外労働の上限が以下のように定められました。
- 月100時間未満
- 2~6か月平均で月80時間以内
- 年720時間以内
この上限規制に違反した場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
しかし、医療現場では状況が異なります。医師の勤務時間は、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されましたが、地域医療確保のため「地域医療確保臨時特例」が設けられています。 この特例により、一定の条件下で年960時間までの時間外労働が認められています。
参考)https://kokoro.mhlw.go.jp/paper/files/05-r20-3-tsuruta-ishi.pdf
これは、一般の上限規制(年720時間)を大きく超える水準であり、医療従事者の過重労働が依然として深刻な問題であることを示しています。
脳・心臓疾患の労災認定基準では、業務による明らかな過重負荷があったかどうかを判断するために、3つの認定要件が設けられています。
認定要件1:長期間の過重業務
発症前のおおむね6か月間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。 評価期間は発症前おおむね6か月間で、労働時間のほか、以下の負荷要因も考慮されます。
認定要件2:短期間の過重業務
発症前おおむね1週間前にわたって、特に過重な業務に就労したこと。 発症直前の短期間に集中して過重な負荷がかかった場合の評価要件です。
参考)和歌山労働局|各種法令・制度・手続き|法令・制度|労災保険関…
認定要件3:異常な出来事
発症直前から前日までの間において、発症状態を時間的・場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。 異常な出来事は、以下の3つに分類されます。
これらの認定要件は、一つの要件だけでなく、複数の要件が組み合わさって評価されることもあります。
過重労働による健康障害は、脳・心臓疾患だけでなく、精神障害も重要な対象です。 精神障害の労災認定基準では、長時間労働が心理的負荷として評価されます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/001309209.pdf
長時間労働がある場合の評価方法は、以下の3つの視点から行われます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf
2023年10月の認定基準改正により、以下の長時間労働の状況が「業務による強い心理的負荷」として明確に位置づけられました。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001152338.pdf
精神障害の認定では、時間外労働時間だけでなく、以下のような心理的負荷も総合的に評価されます。
医療従事者の過重労働は、一般の労働者とは異なる深刻な実態があります。 医師の過重労働に関する研究では、以下の事実が明らかになっています。
さらに、医療従事者の過重労働には、以下のような特徴的な負荷要因があります。
医療現場では、人員不足や患者の増加により、過重労働が慢性化しているケースが多く見られます。 2024年4月から医師にも時間外労働の上限規制が適用されましたが、地域医療確保のための特例により、一般の規制よりも緩い基準が適用されています。
この特例により、原則として年960時間までの時間外労働が認められており、これは一般の上限(年720時間)を大きく超える水準です。 医療従事者の過重労働問題は、単なる労働時間の問題ではなく、医療の質や患者の安全にも影響する重大な課題です。
厚生労働省「過重労働による健康障害を防ぐために」:過重労働対策の基本的な知識と事業者の対応が詳しく記載されています。
厚生労働省「長期間の過重業務における労働時間の評価等」:労災認定における労働時間の評価基準の詳細が記載されています。
厚生労働省「こころの耳」過重労働対策:過重労働対策に関する基本的な知識がまとめられています。
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