
赤ちゃんの胃食道逆流には、成長過程で誰にでも起こる「生理的逆流(GER)」と、病的な状態である「胃食道逆流症(GERD)」の2種類があります。生理的逆流は、乳児の約50%が生後3ヶ月までに経験するもので、授乳後にミルクを吐くことがあっても、機嫌がよく体重増加が順調であれば心配いりません。
一方、胃食道逆流症は、逆流によって不快な症状や合併症を伴う状態を指します。具体的には、頻繁な嘔吐による体重増加不良、逆流性食道炎、反復性肺炎、貧血、無呼吸発作などが認められる場合です。 この区別は非常に重要で、生理的逆流は生後12〜18ヶ月までに自然に改善するのに対し、病的逆流は医療介入が必要になります。
見分け方のポイントとして、以下の症状がある場合はGERDを疑ってください。
胃食道逆流症の症状は多彩で、消化器症状と呼吸器症状の両方に現れるのが特徴です。消化器症状としては、嘔吐、吐血、下血、哺乳不良、体重増加不良、反芻運動(一度飲み込んだ食べ物が再び口に戻り再咀嚼する)、胸焼けなどが挙げられます。 乳児では、胸やけを直接訴えることができないため、哺乳拒否や不機嫌、背部を反らすような姿勢(サンドイファー症候群)で表現されることがあります。
参考)胃食道逆流症
呼吸器症状は、胃酸が咽喉頭や気管に到達することで引き起こされます。具体的には、慢性咳嗽、喘鳴(ゼイゼーという音)、反復する呼吸器感染、無呼吸発作などが認められます。 胃食道逆流は、乳幼児に突然起こるチアノーゼや無呼吸発作などの呼吸障害の原因の一つとも考えられており、注意が必要です。
参考)胃食道逆流症
意外な事実として、喘息と診断された子供の約半数に胃食道逆流が関与している可能性が指摘されています。 長引く咳で喘息と診断されて治療を受けている場合でも、実は胃食道逆流症が原因だったというケースも少なくありません。このため、呼吸器症状が改善しない場合は、GERDの検査を検討する価値があります。
参考)https://allabout.co.jp/gm/gc/402353/
胃食道逆流症の診断は、症状と病歴の確認から始まりますが、確定診断には客観的な検査が不可欠です。主な検査方法として、以下の4つが挙げられます。
1. 上部消化管造影検査
食道と胃の形状(胃の捻れや食道裂孔ヘルニアの有無)、造影剤の十二指腸への流れ具合、食道への逆流の状態や程度を確認します。これは、解剖学的な異常を評価する重要な検査です。
2. 24時間食道pHモニタリング・食道インピーダンス検査
微小電極を用いて食道内のpHや電気抵抗を24時間にわたって記録し、胃酸の逆流や食道の蠕動を評価する方法です。この検査で、pH4未満の時間率が4%以上の場合、異常な胃食道逆流と診断されます。 また、食道インピーダンスを併用することで、酸性だけでなく非酸性の逆流も検出可能で、より正確な逆流頻度と内容物の性状を把握できます。
参考)https://nakano-kodomo.or.jp/shounigeka/doctor/doc_ger01.htm
3. 食道内視鏡検査・生検
胃食道逆流症に伴う逆流性食道炎の診断に有用ですが、小児では全身麻酔を要することから、一般的な診断法ではありません。 ただし、内視鏡検査で食道粘膜の炎症や潰瘍、狭窄を直接観察できるため、重症例や合併症が疑われる場合には重要です。
4. PPIチャレンジテスト
胃酸分泌抑制薬(PPI)を一定期間内服させて、胃食道逆流症状が消えるかどうかを確認する検査です。薬剤を中止した時に症状が再燃すれば、GERDの可能性が高いと判断できます。
これらの検査は、単独ではなく組み合わせて行うことで、より正確な診断が可能になります。特に、24時間pHモニタリングは、胃食道逆流症かどうかとその程度を知るために不可欠な検査とされています。
胃食道逆流症の治療は、まず保存療法から開始し、重症例では手術療法を考慮する段階的アプローチが基本です。保存療法には、食事療法、体位療法、薬物療法の3つの柱があります。
参考)胃食道逆流〔いしょくどうぎゃくりゅう〕|家庭の医学|時事メデ…
食事療法では、以下の工夫が推奨されます。
参考)「乳幼児の在宅医療を支援するサイト ~埼玉県小児在宅医療支援…
薬物療法では、胃酸分泌抑制薬が中心となります。プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーを使用し、胃酸の分泌を抑制することで食道粘膜の炎症を改善します。 ただし、薬物療法は症状の改善が見られる場合に限られ、漫然とした長期使用は避けるべきです。また、PPIの長期使用により、腸内細菌叢の変化や感染リスクの増加が懸念されるため、注意が必要です。
参考)Diagnosis of GER & GERD in Inf…
MSDマニュアル プロフェッショナル版 乳児の胃食道逆流(胃食道逆流の病因、診断、治療の詳細な解説)
保存療法でも改善しない重症例や、生命に関わる合併症を有する場合は、手術療法を考慮します。手術適応となるのは、以下のようなケースです。
手術法としては、主にラパロスコピック下胃底部折畳術(Nissen手術)が行われます。この手術では、胃の上部を食道の周囲に巻きつけて弁を作り、逆流を物理的に防止します。手術後、多くの症例で逆流症状が劇的に改善し、栄養状態や呼吸状態が安定することが報告されています。
家族ができるケアとしては、以下の点が重要です。
また、家族の精神的サポートも重要です。胃食道逆流症は長期にわたる管理が必要な場合が多く、保護者のストレスや不安が高まりがちです。医療者と連携し、適切な情報提供とサポートを受けることが、家族のQOL向上につながります。
日本小児外科学会 胃食道逆流症(手術適応や治療法についての詳細な解説)
胃食道逆流症には、一般にあまり知られていない意外な事実がいくつかあります。まず、逆流性食道炎と胃食道逆流症は同一ではありません。かつては同義語として扱われていましたが、現在では、内視鏡で粘膜病変が認められる「逆流性食道炎」と、多彩な症状を呈する「胃食道逆流症」を区別する考え方が主流です。
参考)大人だけではない!赤ちゃんの胃食道逆流症—嘔吐や肺炎を繰り返…
また、胃食道逆流症は、単なる消化器疾患にとどまらず、全身に影響を及ぼす可能性があります。例えば、胃酸の逆流が反復することで、喉頭や気管が刺激され、慢性咳嗽や喘息様症状を引き起こすことがあります。さらに、逆流物が誤嚥されることで、反復性肺炎や無呼吸発作を引き起こすリスクもあります。
最新の治療動向としては、食道インピーダンスpHモニタリングの普及により、非酸性逆流の検出が可能になり、より正確な診断と治療方針の決定ができるようになりました。 また、重症例に対する内視鏡手術の安全性が向上し、低侵襲な治療選択肢が増えています。さらに、胃酸分泌抑制薬の適正使用ガイドラインが整備され、漫然とした長期使用のリスクが認識されるようになってきました。
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