
医療行為一覧を理解する際、まず押さえておきたいのが厚生労働省が示す「医行為」の概念です。 「医行為」についての検討会資料では、医師法第17条に基づき、診断・治療を目的として人体に危害を及ぼすおそれのある行為を医行為(医療行為)として整理していることが示されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/02/s0203-2g.html
特に重要なのは、「人体に危害を及ぼすおそれ」という抽象的な文言を具体的な行為レベルに落とし込むため、厚生労働省が詳細な医行為分類(たたき台)を作成し、個別行為ごとに危険性や必要な判断能力を評価している点です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10805000/2r98520000028zj8.pdf
なお、この医行為分類は法令そのものではなく、看護師等の業務範囲や教育内容、さらにはタスクシフト・タスクシェア(特定行為研修)を検討するための技術的な資料であることが明示されており、あくまで「整理案」「たたき台」として位置づけられています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10805000/2r9852000002inuf.pdf
医療現場にとっての実務上の意義としては、医療行為一覧が単なる羅列ではなく、危険度・侵襲性・必要な判断の複雑さなどに応じて分類されることで、誰がどこまで実施できるのかという議論の共通言語となる点が挙げられます。
例えば、採血や静脈路確保、インスリン投与調整などは一見「日常的な行為」ですが、医行為分類上は詳細な評価コメント付きで整理されており、教育や研修を設計するうえでの基準として活用できます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10805000/2r9852000002dtkp.pdf
厚生労働省が公表している「医行為分類の検討(56行為)(たたき台)」や「医行為分類の検討(203行為)(たたき台)」は、医療行為一覧を理解するうえで中核となる資料です。
56行為版では、代表的な医行為に番号を振り、「医行為名」「概要」「評価」といった項目で整理されており、例えば「局所麻酔(硬膜外・脊髄くも膜下)」「腹部超音波検査の実施」「皮下膿瘍の切開・排膿」「動脈血採血」などが具体的な文言とともに記載されています。
医行為の評価欄では、実施に必要な判断の難易度、リスクの大きさ、代替手段の有無などがコメントされており、これが後の特定行為区分や看護師特定行為研修の策定にもつながっていると読み取れます。
203行為版では、より細分化された医行為一覧が示され、診療報酬上の「診療行為コード」の世界観にも近い粒度で整理されています。
参考)https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/searchMenu/doSearchInputSp
この一覧は、すべての医療行為を網羅した「公式リスト」というよりは、医行為の範囲を明確化し、タスクシフトを検討する際の議論の土台として用いられることを想定しており、「医行為分類案について」として意見募集を行った経緯があります。
参考)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2210_03medical/221215/medical04_0205.pdf
医療行為一覧を語るうえで欠かせないのが、特定行為区分(21区分)との関係です。 特定行為は、一定の研修を受けた看護師が医師の包括的指示のもとで実施できる高度な医行為として位置づけられており、呼吸器・循環器・ドレーン管理・栄養管理・感染症治療などにまたがる21の区分に整理されています。
参考)特定行為区分とは|厚生労働省
例えば、呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連では「侵襲的陽圧換気の設定の変更」「非侵襲的陽圧換気の設定の変更」「人工呼吸器からの離脱」「人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整」が含まれ、いずれも医行為分類上は高いリスクと高度な判断を要する行為と評価されるものです。
また、創傷管理関連の特定行為としては「褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去」「創傷に対する陰圧閉鎖療法」などが挙げられ、これらは医行為分類の「創傷処置」「デブリードマン」などと対応しつつ、看護師特定行為研修の具体的なカリキュラム設計に落とし込まれています。
動脈血液ガス分析関連では「直接動脈穿刺法による採血」「橈骨動脈ラインの確保」が特定行為として列挙されており、医行為分類の中で「すでに確保された動脈ラインからの採血」と明確に区別されている点が、医療行為一覧の細かさを象徴しています。
特定行為区分の21区分全体を概観すると、医療行為一覧の中でも「医師の負担が大きいが、適切な研修を受けた看護師が代行可能」と判断された領域が選ばれていることがわかります。
これは、単なる業務拡大ではなく、安全性を担保しつつチーム医療を推進するための制度設計であり、医療行為一覧と医行為分類が医師法・保助看法の枠組みの中でどのように運用されているかを理解するうえで重要なポイントです。
医療行為一覧を厚生労働省の診療報酬情報提供サービスである「医科診療行為マスター」と接続して考えることも、実務では有用です。 診療行為マスターでは、初診料・再診料・入院料から各種検査、投薬、注射、手術、放射線治療、病理診断まで、区分番号と診療行為名称・コードで体系的に整理されています。
このマスター上の各診療行為は、医行為分類でいう個別の「医行為」と多くの部分で対応しており、例えば「腹部超音波検査」「血液学的検査」「生化学的検査」「核医学診断」「コンピュータ断層診断(CT)」などは、診療行為コードと同時に、医行為分類の中でも独立した行為として評価されています。
興味深いのは、診療報酬上は同一名称・同一点数であっても、医行為分類の側では危険性や必要なスキルの観点から細かく区別されているケースがあることです。
例えば、静脈採血と動脈採血は、診療行為マスター上ではいずれも「採血」として扱われることがありますが、医行為分類では侵襲性や合併症のリスクの違いを考慮して別個に評価されており、特定行為区分では動脈採血や動脈ライン確保が明確に位置づけられています。
このように、医療行為一覧を診療行為マスターとリンクさせてみると、同じ「行為名」であっても、医行為分類・特定行為区分・診療報酬の三つのレイヤーで意味合いが微妙に異なることが見えてきます。
院内のタスクシフト検討やマニュアル作成では、「診療報酬上の行為」と「医行為分類上の行為」を意識的に切り分け、どのレイヤーで誰が何を行うのかを整理することが、現場の混乱を防ぐうえで重要となります。
医療行為一覧や厚生労働省の医行為分類は、多くの医療従事者にとって「お上が作った難しい資料」として敬遠されがちですが、少し視点を変えると現場の運用に直結する示唆が得られます。
一つ目のポイントは、「医行為分類は静的なリストではなく、時代とともに更新される前提の“たたき台”である」という位置づけです。 医行為分類のPDFには、行為の追加や修正、コメントの変更履歴が残されており、医療技術の進歩や診療現場のニーズに応じて議論が継続していることが読み取れます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10805000/2r98520000023yce.pdf
二つ目のポイントは、「医行為分類の注釈や概要欄に、現場のグレーゾーン解消のヒントが隠れている」ことです。 例えば、皮下膿瘍の切開・排膿の項目では、皮下組織までの表層切開なのか、より深部までを含むのかが明示されており、看護師・医師・他職種の役割分担を考える際のボーダーラインとなり得ます。
また、「事前に確保されている動脈ラインからの採血」は、直接動脈穿刺とは別の行為として扱われており、既存ルート利用と新規穿刺のリスク差が明確に意識されていることがわかります。
三つ目の、あまり知られていない視点として、医行為分類は看護師だけでなく、薬剤師や臨床検査技師、理学療法士などコメディカルの業務整理にも応用可能です。
例えば、薬剤投与関連の特定行為(高カロリー輸液の投与量調整、感染徴候がある患者への臨時投与、インスリン投与量の調整など)は、薬剤部門の臨床業務や医師・看護師との役割分担を検討する際の参考になるほか、院内のクリニカルパスやプロトコルの作成にもそのまま転用できる構造になっています。
実務的には、医療行為一覧を院内用に再編集し、「診療行為コード」「医行為分類番号」「特定行為区分」「実施可能職種」「必要研修・資格」といった項目を付した独自の一覧表を作成することで、タスクシフトの全体像が一気に見えやすくなります。
こうした「ローカル医療行為一覧」を作る際のベースとして厚生労働省の医行為分類を活用すると、法令・通知の趣旨から逸脱しない形で院内ルールを設計できる点が、医療安全とコンプライアンスの両立という意味で非常に大きなメリットです。
医療行為一覧をさらに深掘りしたい場合、厚生労働省の公式資料とともに、政府の規制改革関連文書や自治体向け通知も参照すると理解が立体的になります。
参考)https://www.city.kobe.lg.jp/documents/48676/20221201ikoui2.pdf
例えば、「医政発1201第4号」(令和4年12月1日付)では、各都道府県知事あてに、医行為範囲の明確化やタスクシフトに関する考え方が整理されており、医行為分類や特定行為の枠組みが実際にどのような行政運用として共有されているのかを知ることができます。
規制改革会議の資料「医行為範囲の明確化等について」では、医師・看護師の業務範囲に関する要望や、タスクシフト推進に向けた課題が具体的に列挙されており、医療行為一覧が単に現場向けの一覧表ではなく、政策ツールとしても利用されていることがうかがえます。
学術的な観点からは、医行為分類を用いて看護師特定行為研修の効果や安全性を評価した研究や、タスクシフトが医師の働き方改革に与える影響を検討した論文も増えつつあります。
例えば、特定行為研修を修了した看護師による人工呼吸器設定変更やドレーン抜去などの介入が、合併症発生率やICU在室日数にどのような影響を与えたかを検証する研究などは、医療行為一覧と特定行為区分の意義をエビデンスベースで裏付ける材料となります。
こうしたエビデンスを踏まえつつ、医療行為一覧を単なる「リスト」としてではなく、医療安全・業務最適化・医師の働き方改革という三つの視点から読み解くことが、今後の医療提供体制を考えるうえで重要になってくるでしょう。
医行為分類や特定行為区分を正しく読み解き、自施設の医療行為一覧をどのようにアップデートしていくか——ここに、医療従事者としての専門性と組織運営の両方が試されていると言えるのではないでしょうか。
医行為の基本概念と行政上の位置づけを確認する場合に参考になる厚生労働省の資料です。
厚生労働省「『医行為』について」検討会資料
医行為分類(56行為・203行為)の具体的な一覧と評価コメントを確認したい場合の一次資料です。
厚生労働省「医行為分類の検討(56行為)(たたき台)」
特定行為区分(21区分)の定義と各特定行為の一覧を確認したい場合に有用なページです。
厚生労働省「特定行為区分とは」
診療報酬上の診療行為と医行為分類を接続して考える際に便利な公式マスターです。
厚生労働省「医科診療行為マスター」診療報酬情報提供サービス
都道府県向け通知や規制改革関係資料を通じて、医行為範囲の明確化の政策的背景を把握するのに役立ちます。
内閣府規制改革推進会議「医行為範囲の明確化等について」資料
【指定第2類医薬品】イブA錠 90錠