従来、エリスロポエチン(EPO)製剤は注射による投与が主流であり、経口投与は技術的に困難とされてきました。しかし、HIF-PH阻害薬の登場により、内因性エリスロポエチン産生を促す経口治療が現実的な選択肢となりました。本記事では、エリスロポエチン製剤の経口投与に関する現状と、HIF-PH阻害薬の特徴、臨床的有用性、注意点について詳しく解説します。
参考)https://www.asahikawa.jrc.or.jp/app/wp-content/uploads/2020/03/rinrikoukai2019-50_2.pdf

エリスロポエチン製剤の経口投与は、長年の創薬研究における重要課題でした。エリスロポエチンはタンパク質ホルモンであり、経口投与すると消化管内で分解され、吸収されないという根本的な課題がありました。そのため、1990年に日本で承認された遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤(エポジン、エスポーなど)は、すべて注射製剤として開発されました。
参考)医療用医薬品 : エスポー (エスポー皮下用24000シリン…
現在、日本では5種類のHIF-PH阻害薬が臨床使用されています。
参考)腎性貧血治療薬HIF-PH阻害薬に5剤目登場:日経メディカル
これらの薬剤は全て、ESA製剤との非劣性が臨床試験で検証されており、安全性プロファイルも確立されています。
HIF-PH阻害薬の作用機序を理解することで、従来のESA製剤との違いが明確になります。HIF(低酸素誘導因子)は、生体が低酸素状態に曝露された際に赤血球造血を促進する転写因子です。通常の酸素環境下では、HIFαはHIF-PHによって水酸化され、ユビキチン・プロテアソーム系によって分解されます。
参考)国内で使用されるHIF-PH阻害薬5剤の特徴 (腎と透析 9…
この二重の作用機序(EPO産生誘導+鉄利用効率改善)により、HIF-PH阻害薬は従来のESA製剤よりも効率的に赤血球産生を促進すると考えられています。特に、鉄欠乏を併存する患者やESA低反応性を示す患者において、その有用性が発揮されます。
参考)https://kirishima-mc.jp/data/wp-content/uploads/2023/05/7dcf0be199023cbddf855ffe18c78079.pdf
ロキサデュスタット、透析患者の腎性貧血に対しESAより高いHb値上昇効果(CareNet)
2025年に発表された実臨床データでは、維持血液透析を受けている腎性貧血患者において、ロキサデュスタットは従来のESAと比較して、ヘモグロビン(Hb)値の上昇効果が有意に高く、心血管安全性も同等であることが示されました。解析の結果、ロキサデュスタットはESAと比較して、6~12か月時点(最小二乗平均差:0.46 g/dL、p = 0.04)および18~30か月時点(0.26 g/dL、p = 0.01)でHb値の有意な上昇を示しました。
また、経口剤であることから、以下の利点が挙げられます。
エベレンゾは唯一の週3回投与薬剤で、透析患者では透析日のみの服用が可能です。これにより、服薬コンプライアンスの向上が期待できます。一方、その他の4剤は1日1回投与となっています。
承認時までの臨床試験から、副作用(臨床検査値異常を含む)として、鉄欠乏(1%以上)などが認められ、重大な副作用としては、脳梗塞(0.3%)などの血栓塞栓症(0.3%)、間質性肺疾患(0.5%)が報告されています。
薬剤によって確率に0.3~4.2%と幅があるが、全ての薬において共通の副作用として血栓塞栓症があげられます。透析患者は基礎疾患の観点から、血管が脆く、元々血栓塞栓症のリスクが高いため注意が必要です。
参考)腎性貧血治療薬(HIF-PH阻害薬)一覧【ファーマシスタ】薬…
さらに、HIFは血管新生に関わる遺伝子群の発現を誘導することから、HIF-PH阻害薬による悪性腫瘍のリスクの上昇や糖尿病性網膜症の増悪が懸念されています。
その他の合併症として、肺高血圧症や多発性嚢胞腎患者での嚢胞の増大、高カリウム血症、下痢、嘔吐、頭痛などの副作用が報告されています。
ヘモグロビン濃度が上昇することで血液の粘稠度が増すため、心血管病や血栓症のリスク管理が重要です。
iPS細胞由来のEPO産生細胞に関する研究の現状と臨床応用の可能性(医書.jp)
HIF-PH阻害薬の登場により、エリスロポエチン製剤の経口投与が現実的になりましたが、さらに将来的な展望として、iPS細胞由来のEPO産生細胞に関する研究が進められています。このアプローチは、従来の薬剤投与とは全く異なる次元での治療法となり得ます。
参考)iPS細胞由来エリスロポエチン産生細胞を用いた新規腎性貧血治…
iPS細胞由来のEPO産生細胞は、患者自身の細胞から作製することで、免疫原性の問題を回避し、持続的なEPO産生を期待できる可能性があります。しかし、技術的課題として、細胞の安定性、腫瘍化リスク、長期安全性の確認など、多くのハードルが残されています。
この研究領域は、HIF-PH阻害薬とは異なるアプローチですが、エリスロポエチン産生を促進するという点で共通の目的を持っています。将来的には、HIF-PH阻害薬とiPS細胞由来EPO産生細胞の併用療法や、個々の患者の病態に応じた最適な治療選択が可能になるかもしれません。
また、2025年10月には、抗体医薬品候補分子に関する経口製剤の共同開発・商業化のライセンス契約が締結され、同社の革新的な経口投与技術が注目されています。この技術がエリスロポエチン製剤の経口投与にも応用される可能性もあり、今後の創薬動向から目が離せません。
参考)https://www.chugai-pharm.co.jp/ir/reports_downloads/annual_reports/files/jAR2025_12_spread.pdf
HIF-PH阻害薬の投与設計は、各薬剤の特性に応じて異なります。エベレンゾ(ロキサデュスタット)の場合、開始用量は1回50mg、投与頻度は週3回経口投与です。最高用量は1回3.0mg/kgを超えないこととされています。
ESA製剤から切り替える場合、開始用量は1回70mgまたは100mgです。週3回の経口投与で、透析患者では透析日に合わせた服用が可能です。
一方、他のHIF-PH阻害薬(ダーブロック、バフセオ、エナロイ、マスーレッド)は1日1回投与となっています。最高用量投与時の薬価では、バフセオが最も経済的で、ダーブロックが最も高額となっています。医療経済性も薬剤選択の重要な要因の一つです。
投与量の調節は、ヘモグロビン濃度が目標範囲(10.0~12.0 g/dL)に維持されるように、投与量調整表および投与量増減ルールに従い調整します。これにより、過剰な造血効果による血栓塞栓症のリスクを回避することが重要です。
血液透析患者と腹膜透析患者におけるHIF-PH阻害薬の反応性の差は、合併症の回避という点から重要です。腹膜透析患者は慢性炎症など様々な理由で貧血のコントロールが困難であるが、HIF-PH阻害薬は鉄の利用効率の促進という観点でより効果が見込まれます。
2025年版 CKD患者における腎性貧血治療ガイドラインのポイント(東京医学社)
日本腎臓学会 HIF-PH阻害薬適正使用に関する推奨(日本腎臓学会)
日本腎臓学会のHIF-PH阻害薬適正使用に関する推奨では、各薬剤の特性を理解した上で、個々の患者の病態に応じた最適な薬剤選択が重要とされています。
参考)https://jsn.or.jp/data/HIF-PH_recommendation.pdf
非透析腎臓病患者の貧血に対するロキサデュスタット(NEJM日本国内版)
非透析腎臓病患者の貧血に対するロキサデュスタットの第2相試験では、内因性エリスロポエチン濃度を生理的範囲内またはほぼ生理的範囲に上昇させ、同時にヘモグロビンを増加させ、鉄恒常性を改善したことが示されています。
参考)https://www.nejm.jp/abstract/vol381.p1001
HIF-PH阻害薬 5種類の特徴まとめ
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