eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate:推算糸球体ろ過量)は、腎臓のフィルター機能である糸球体が、1 分間にどれだけの血液をろ過できるかを推定した値です。 この数値は、慢性腎臓病(CKD)の診断や病期分類、さらには薬物投与量の調整において、臨床現場で最も頻用される指標の一つとなっています。
参考)egfr-refvalue">https://oasismedical.or.jp/column/what-egfr-refvalue
eGFR がこれほど重要視される理由は、直接的に糸球体ろ過量(GFR)を測定する検査(クリアランス試験など)が、時間と手間、そして患者の負担が大きいことにあります。 一方で、eGFR は採血で得られる血清クレアチニン値やシスタチンC 値、それに年齢と性別という基本的な情報から簡便に算出可能です。 特に日本では、日本人のデータに基づいて日本腎臓学会が策定した専用の計算式が採用されており、これが国際的に見ても精度の高い評価を可能にしています。
参考)CKDに関する計算ツール

eGFR の計算において、最も基本的かつ広く用いられているのが、血清クレアチニン(Scr)値を用いた以下の日本腎臓学会の式です。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/mc/eGFR_Estimated.htm
男性: eGFR (mL/min/1.73m²) = 194 × Scr-1.094 × 年齢-0.287
女性: eGFR (mL/min/1.73m²) = 194 × Scr-1.094 × 年齢-0.287 × 0.739
参考)診断基準について
この式から読み取れる重要なポイントは 3 つあります。
参考)腎機能マーカー「eGFR」とは?数値の見方と年齢別基準値、計…
参考)腎機能の正確な評価方法 クレアチニン vs. シスタチンC|…
この計算式は 18 歳以上の成人を対象としており、18 歳未満の小児には適用されません。 小児の場合は、年齢や発達段階に応じた専用の計算式が用いられます。
血清クレアチニンを用いた eGFR 計算式は簡便ですが、一つ大きな弱点があります。それは、クレアチニンが筋肉量の影響を強く受ける点です。 この弱点を補うために開発されたのが、血清シスタチン C(Cys-C)値を用いた eGFR 計算式です。
参考)https://hokuto.app/calculator/baJfdcSiIzR1vzT6OHUU
男性: eGFRcys (mL/min/1.73m²) = (104 × Cys-C-1.019 × 0.996年齢) - 8
女性: eGFRcys (mL/min/1.73m²) = (104 × Cys-C-1.019 × 0.996年齢 × 0.929) - 8
参考)Cystatin CとeGFRの違いと読み解き方|Ianak
シスタチン C は、すべての体細胞で産生される低分子タンパク質で、糸球体で自由にろ過され、尿細管で再吸収されずに分解されます。 この性質により、シスタチン C は筋肉量や食事、運動の影響をほとんど受けず、より安定した腎機能マーカーとして注目されています。
参考)https://www.tokyo-igakusha.co.jp/asset/errata/0641-5H23.pdf
特に、以下のようなケースでは、シスタチン C を用いた eGFR 計算式が有用です。
参考)eGFRの基礎知識
参考)http://www.falco.co.jp/business/091.pdf
より正確な腎機能評価が必要な場合には、クレアチニンとシスタチン C の両方から eGFR を算出し、その平均値を用いることで、単独で用いるよりも正確度が明らかに改善することが報告されています。
参考)http://www.falco.co.jp/business/pdf/n001.pdf
eGFR 計算式には年齢が組み込まれていますが、それでもなお、高齢者や筋肉量に極端な偏りがある患者では、実際の腎機能との間に誤差が生じる可能性があります。これは、臨床現場で非常に重要な注意点です。
高齢者では、加齢に伴い筋肉量が減少します。その結果、血清クレアチニン値は低めに推移しやすくなります。 この状態でクレアチニンベースの eGFR を計算すると、式の仕組み上、eGFR 値は実際よりも高く算出されてしまいます。つまり、腎機能が過大評価され、CKD が見過ごされるというリスクがあります。
逆に、若くても筋肉量の多いアスリートなどでは、血清クレアチニン値が高くなり、eGFR は実際よりも低く算出されます。この場合、腎機能が過小評価され、本来 CKD ではないのに CKD と誤診断される可能性があります。
この問題を解決する一つの方法として、前述のシスタチン C を用いた eGFR 計算式があります。 しかし、さらに意外な落とし穴として、「脱水」の影響も無視できません。 脱水状態では血液が濃縮され、血清クレアチニン値が相対的に上昇します。その結果、eGFR は一時的に低下して見えます。高齢者は脱水になりやすく、この影響で eGFR が低く出た場合、腎機能の低下と誤解されるケースが少なくありません。
したがって、eGFR の値を解釈する際には、以下の点を総合的に判断することが求められます。
eGFR は、腎機能の評価だけでなく、腎排泄型薬剤の投与量調整においても極めて重要な役割を果たします。 多くの薬物は、腎臓を通じて体外に排泄されます。腎機能が低下している患者に、通常の投与量を投与すると、薬物が体内に蓄積し、副作用のリスクが高まります。
参考)MC Plus Material - 参考資料1 高齢者の医…
薬物投与量の設定には、以下の 2 つの主要なアプローチがあります。
Cockcroft-Gault 式(CG 式)
男性:eCCr (mL/min) = ((140 - 年齢) × 体重kg) / (72 × 血清クレアチニン値mg/dL)
女性:eCCr (mL/min) = 男性の eCCr × 0.85
CG 式は、年齢、体重、血清クレアチニン値、性別から eCCr を算出します。この式は、eGFR 計算式とは異なり、体重を直接式に組み込んでいる点が特徴です。
しかし、CG 式には注意が必要です。この式は、酵素法ではなく、Jaffe 法という古い測定法で得られた血清クレアチニン値を基準に作成されています。 現在、日本のほとんどの医療機関で採用されている酵素法で測定された血清クレアチニン値をそのまま CG 式に代入すると、eCCr が実際よりも低く算出されてしまいます。
これを補正するためには、実測した酵素法の血清クレアチニン値に 0.2 mg/dL を加えてから CG 式に代入する必要があります。 この補正を怠ると、過剰な投与量調整(減量)を行い、治療効果が得られなくなるリスクがあります。
また、肥満患者に対して CG 式を用いる場合は、実体重ではなく理想体重(BMI 22 となる体重)を用いて算出することが推奨されています。 これは、肥満による脂肪組織の増加が、クレアチニン産生には寄与しないためです。
最後に、成人用の eGFR 計算式が適用できない、小児や特殊な患者集団へのアプローチについて解説します。これは、多くの医療従事者があまり意識していない、しかし重要な視点です。
参考)診療支援資材
小児(18 歳未満)の eGFR 計算
18 歳未満の小児では、成人用の日本腎臓学会の式は使用できません。 小児の腎機能評価には、身長や発達段階を考慮した専用の計算式が用いられます。
参考)腎機能チェックツール
- eGFR (mL/min/1.73m²) = 110.2 × (ref Cr / s-Cr) + 2.93
- 3 ヶ月以上 2 歳未満の場合は、さらに月齢に応じた係数 R を乗じて補正します。
- eGFR (mL/min/1.73m²) = 104.1 × (1 / serum Cys-C mg/L) - 7.80
特殊な患者集団への対応
このように、eGFR 計算式は便利ですが、万能ではありません。患者の背景(年齢、筋肉量、脱水状態、妊娠の有無など)を常に考慮し、必要に応じてシスタチン C を用いたり、他の検査結果と照らし合わせたりする臨床推論が、医療従事者には求められています。
参考)【腎臓内科専門医が解説】eGFRとは?腎臓の健康を知る重要な…
日本腎臓学会 CKD 診療ガイドライン 2012(eGFR 男女・年齢別早見表 収録)
国立国際医療研究センター 薬物投与量設定に使用する腎機能推算式資料
日本腎臓病薬物療法学会 eGFR・eCCR 計算ツール
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