チカグレロルは、冠動脈の血液供給に問題がある急性冠症候群(ACS)の患者において、脳卒中や心筋梗塞などの予防に使用される経口抗血小板薬です。 日本での製品名は「ブリリンタ」で、アストラゼネカが製造販売しています。 欧州では2010年12月、米国では2011年7月、そして日本では2016年9月に承認されており、比較的新しい抗血小板薬として位置づけられます。
チカグレロルは、シクロペンチルトリアゾロピリミジン(CPTP)群に分類される新規化合物です。 従来のチエノピリジン系薬剤(クロピドグレル、プラスグレルなど)と同様に、血小板のアデノシン二リン酸(ADP)受容体であるP2Y12受容体に対して選択的かつ直接的な阻害作用を有し、ADPによる血小板凝集を抑制します。 しかし、その作用機序には従来薬とは異なる重要な特徴がいくつか存在します。
参考)速やかに効果が発現・消失する新規抗血小板薬:日経メディカル

チカグレロルの最大の特徴は、P2Y12受容体への結合が「可逆的」である点です。 従来のチエノピリジン系抗血小板薬(クロピドグレル、プラスグレル)は、P2Y12受容体に「不可逆的に結合」して血小板凝集作用を阻害します。 これに対し、チカグレロルはP2Y12受容体に可逆的に結合することにより抗血小板作用を発現します。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_6539
この可逆的結合により、以下のような臨床的メリットが生まれます。
参考)チカグレロル(ブリリンタ錠)の特徴【2つの適応と適正使用のポ…
具体的には、チカグレロルはそのままの状態でADP受容体と可逆的に拮抗します。 ADP受容体を阻害することで、血小板内のアデニル酸シクラーゼを活性化し、cAMPの増加をもたらすことで血小板内Ca2+量が減少し、血小板の凝集を抑制します。
| 特徴 | チカグレロル(ブリリンタ) | クロピドグレル(プラビックス) | プラスグレル(エフィエント) |
|---|---|---|---|
| 化学構造 | CPTP系 | チエノピリジン系 | チエノピリジン系 |
| 受容体結合 | 可逆的 | 不可逆的 | 不可逆的 |
| プロドラッグ | いいえ(直接作用) | はい(代謝活性化必要) | はい(代謝活性化必要) |
| 効果発現 | 速い | やや遅い | 速い |
| 効果消失 | 速い | 遅い(血小板寿命まで) | 遅い(血小板寿命まで) |
チカグレロル(ブリリンタ)には、2つの適応があります。
参考)https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=55149
1. 急性冠症候群(ACS)
不安定狭心症(UA)、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、またはST上昇型心筋梗塞(STEMI)の患者における、血栓性心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)の発生率の低減が適応です。 ACS発症から12カ月間までの治療においては、チカグレロルがクロピドグレルに優ることが証明されています。
2. 陳旧性心筋梗塞
心筋梗塞発症後1年経過までの患者さんで、アテローム血栓性イベントの再発リスクが高い患者さんの治療が適応です。 具体的には、以下の背景を持つ患者が対象となります:
PLATO試験(大規模臨床試験)の結果、チカグレロル群はクロピドグレル群と比較して、主要エンドポイント(血管系の原因による死亡、心筋梗塞、脳卒中から成る複合エンドポイント)の発生率が有意に低下しました(チカグレロル群9.8% vs クロピドグレル群11.7%、ハザード比0.84、P<0.001)。 さらに、あらゆる原因による死亡率もチカグレロル群のほうが低かった(4.5% vs 5.9%、P<0.001)という画期的な結果が得られています。
参考)https://www.nejm.jp/abstract/vol361.p1045
米国心臓病学会(ACC)および米国心臓病協会(AHA)の急性冠症候群治療ガイドラインでは、チカグレロル(米国での製品名:BRILINTA)が、冠動脈ステント留置を受けた急性冠症候群の既往歴がある患者さん、および薬物のみの治療を受けた非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)患者さんの治療において、クロピドグレルよりも優先されるべきであることが推奨されています。
チカグレロル(ブリリンタ)には、60mg錠と90mg錠の2つの規格があります。 適応と患者背景に応じて、適切な用量を選択する必要があります。
参考)医療用医薬品 : ブリリンタ (ブリリンタ錠60mg 他)
急性冠症候群(ACS)の適応
参考)ブリリンタ錠90mgの効能・副作用|ケアネット医療用医薬品検…
陳旧性心筋梗塞の適応(高リスク患者)
服用を忘れた場合の対応も重要です。患者には、次の服用予定時間に通常通り1回分を服用し、決して1度に2回分を服用しないよう指導する必要があります。 チカグレロルは血小板凝集抑制作用が強力であるため、過量投与は出血リスクを著しく高める可能性があります。
| 適応 | 初回用量 | 維持用量 | 併用薬 |
|---|---|---|---|
| 急性冠症候群(ACS) | 180mg(1回) | 90mg 1日2回 | アスピリン81-100mg/日 |
| 陳旧性心筋梗塞(高リスク) | - | 60mg 1日2回 | アスピリン75-100mg/日 |
参考リンク:ケッグ 医療用医薬品 : ブリリンタ(チカグレロルの薬価・規格情報)医療用医薬品 : ブリリンタ (ブリリンタ錠60mg 他)
チカグレロルの主な副作用は、その薬理作用に関連した出血傾向です。 日本人を含む安全性評価対象6,958例(60mg)中2,403例(34.5%)に副作用が認められています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00008141.pdf
重大な副作用
その他の副作用
呼吸困難の副作用について
特に注目すべきは、チカグレロル特有の副作用として知られる「呼吸困難」です。 患者の13.8%に報告される呼吸困難という副作用の機序は、長らく完全には解明されていませんでした。
しかし、2025年7月に発表された研究で、チカグレロルが末梢の5-ヒドロキシトリプタミン(5-HT、セロトニン)濃度を上昇させることが明らかになりました。 チカグレロルは、トリプトファン水酸化酵素1(TPH1)の発現上昇とセロトニントランスポーター(SERT)の発現低下を介して、末梢の5-HT濃度を上昇させます。 気管収縮に関連する5-HT濃度の上昇が、呼吸困難の副作用に関与している可能性があります。
副作用への対処としては、定期的な観察と早期発見が重要です。 出血症状が認められた場合には、投与中止を含めた適切な処置を行う必要があります。また、患者には出血しやすくなる可能性があることを説明し、異常な出血(鼻出血、歯肉出血、皮下出血、血尿、血便等)が認められた場合には医師に連絡するよう指導することが大切です。
チカグレロルによるP2Y12受容体阻害は、既存のチエノピリジン系P2Y12受容体阻害薬とは異なり可逆的であるため、投与終了後には速やかに作用が消失する特徴があります。 この特徴により、手術前の休薬期間が従来薬よりも短く設定されています。
血小板凝集抑制作用による出血等を防ぐため、既存の薬剤(クロピドグレル、プラスグレル)では手術前に10〜14日以上の休薬が必要でした。 しかし、チカグレロルでは血小板凝集抑制作用の消失が早いことから、手術前5日以上の休薬となっています。
術前休薬期間の目安
参考)https://www.hsp.ehime-u.ac.jp/medicine/wp-content/uploads/202108-1DInews2.pdf
参考)https://pharmacist.m3.com/column/special_feature/5587
| 薬剤名(商品名) | 術前休薬期間 |
|---|---|
| チカグレロル(ブリリンタ) | 5日以上(出血リスク低なら3日) |
| クロピドグレル(プラビックス) | 10〜14日以上 |
| プラスグレル(エフィエント) | 14日以上 |
| チクロピジン(パナルジン) | 10〜14日以上 |
参考リンク:抗血小板薬・抗凝固薬の手術前休薬期間の目安(愛媛大学医学部附属病院)https://www.hsp.ehime-u.ac.jp/medicine/wp-content/uploads/202108-1DInews2.pdf
手術前休薬期間の目安は、あくまでも「目安」ですので、出血リスクと休薬による血栓症・塞栓症発症リスクに応じて判断する必要があります。 また、主治医の指示がある場合は、これらの目安とは異なる場合がありますので、必ず主治医の確認を取ることが重要です。
参考)https://shinshuueda.hosp.go.jp/files/000148815.pdf
チカグレロルは、CYP3A4によって代謝される薬剤です。そのため、CYP3A4阻害薬や誘導薬との併用には注意が必要です。
CYP3A4阻害薬との併用
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2016/P20161026001/670227000_22800AMX00680_B100_1.pdf
CYP3A4誘導薬との併用
その他の重要な相互作用
禁忌
特定の背景を持つ患者への投与注意
参考リンク:ブリリンタ錠 添付文書(PMDA 医薬品医療機器総合機構)https://www.pmda.go.jp/drugs/2016/P20161026001/670227000_22800AMX00680_B100_1.pdf
【指定医薬部外品】新ビオフェルミンSプラス錠 130錠 14日分 大正製薬 整腸剤 [乳酸菌/ビフィズス菌/ロンガム菌/フェーカリス菌/アシドフィルス菌 配合] 腸内フローラ改善 便秘や軟便に