
医療現場で使われる「アクセス権限」と「許可」は似た言葉ですが、一般的にアクセス権限は「どのシステムや情報に到達できるか」、許可は「その中で何をしてよいか(閲覧・登録・修正・削除など)」という操作レベルの違いを指します。
参考)https://ajhc.or.jp/siryo/20250514-22.pdf
例えば電子カルテでは、「患者一覧へアクセスできる権限」と「診療録の新規入力を許可する操作権」が分けられており、看護師・医師・医療事務・検査技師など職種ごとに組み合わせが変わります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001145860.pdf
厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」では、医療情報の閲覧・保存・送受信などの操作ごとに権限を定義し、最小限の権限付与(最小権限の原則)を求めており、アクセス権限と許可の設定が安全管理の出発点とされています。
このガイドラインでは、利用者IDを個人単位で付与し、役割に応じてアクセス権限を許可・制限すること、ログを確実に取得して、権限に対する操作が適切かどうか確認できるようにすることが重要とされています。
また、医療機関向けサイバーセキュリティのチェックリストでは「業務に関係ない情報へのアクセスを許可しない」「アクセス権限の棚卸を定期的に行う」といった具体的な運用例が示されており、権限と許可の設計だけでなく、運用・見直しまで含めて一体で考える必要があります。
参考)https://www.hiroshima.med.or.jp/assets/docs/pdf/ishi/security/security_guide.pdf
厚生労働省ガイドライン本文(医療情報システムの安全管理全般の参考になります)
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(厚生労働省)
アクセス権限と許可を設計する際の基本は「最小権限の原則」であり、利用者が業務遂行に必要な範囲に限定して権限を許可することで、誤操作や不正利用のリスクを減らします。
実際には、職種や役割ごとにロール(役割)を定義し、「救急外来医師」「病棟看護師」「医療事務」「システム管理者」といったロール単位でアクセス権限と許可をまとめて管理するロールベースアクセス制御(RBAC)が医療情報システムでも広く推奨されています。
参考)医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における…
このロールベース管理では、例えば救急外来医師ロールには「診療録の閲覧・記載・処方オーダーの入力」「過去データの閲覧」の許可を付与する一方、医療事務ロールには「診療報酬請求に必要なデータ閲覧」「患者基本情報の更新」のみに許可を絞るなど、ロールごとに粒度の異なる権限を割り当てます。
参考)救急医療における患者の診療情報確認、救急医療従事者に特別権限…
さらに、厚労省ガイドラインや経済産業省の医療情報システム提供事業者向け指針では、権限の付与・変更・削除のワークフローを文書化し、所属長または管理者の承認を前提にしたプロセスを設けることが推奨されており、人的ミスや「いつの間にか権限が広がっている」状態を防ぐ仕組みづくりが求められています。
興味深い点として、国内のサイバーセキュリティ対策資料では、小規模クリニックでも「アカウントの棚卸」を年1回以上行い、退職者や配置転換者のアクセス権限・許可を確実に削除することが重要とされており、これを怠ると内部からの情報漏えいリスクが残り続けるという意外な盲点が指摘されています。
参考)医療機関のサイバーセキュリティ|開業医、クリニックがまず実施…
医療機関向けサイバーセキュリティ対策(アクセス権限設計の実務に役立ちます)
医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト(広島県医師会)
アクセス権限と許可は、単にセキュリティを強化するだけでなく、医療従事者の業務効率にも直接影響します。権限を絞りすぎると必要な情報にたどり着くまでに時間がかかり、逆に広げすぎると誤操作や情報漏えいのリスクが高まります。
救急医療の現場では、「救急医療従事者に特別権限を付与し、通常の端末でも患者の診療情報を参照できる仕組み」を検討した事例が報告されており、平時には最小権限を維持しつつ、救急時のみ限定的に権限を拡大する仕組みが議論されています。
このような特別権限は、時間や場所、患者の状態など特定の条件でのみ許可される「コンテキストベースのアクセス制御」に近く、救急対応や災害時の医療において、患者安全を確保するための柔軟な権限設計として注目されています。
参考)https://www.cyber.go.jp/pdf/council/cs/ciip/dai39/39shiryou_0703.pdf
一方で、アクセス権限と許可を現場の実情に合わせずに画一的に制限してしまうと、「ログインに時間がかかる」「必要な情報にアクセスできず、紙や口頭でのやり取りに戻る」といった非効率が生じ、最終的には患者ケアの質に影響する可能性があります。
そのため、医療従事者の業務フローを丁寧に洗い出し、「どのタイミングでどの情報にアクセスし、どの操作を行うか」を明らかにしたうえで、アクセス権限と許可のバランスを取ることが重要であり、実務担当者と情報システム部門が協働して設計することが望まれます。
救急医療従事者への特別権限付与の検討記事(救急時の権限設計の参考になります)
救急医療従事者に特別権限付与し「通常の端末」で確認する仕組み(Gem Med)
アクセス権限と許可を適切に設計しても、運用と監査を行わなければ現場での不正や誤操作を早期に把握できません。厚労省ガイドラインや各種チェックリストでは「操作ログを定期的に確認すること」が明記されており、誰がどの患者情報にいつアクセスしたかを追跡できる体制が求められます。
ログの活用は「不正アクセスの証拠保全」だけでなく、「業務プロセスの改善」にも役立ちます。例えば、ある診療科だけ特定画面へのアクセス回数やエラーが多い場合、その画面設計や権限設定に問題がある可能性があり、ログ分析から改善点を見つけることができます。
意外な視点として、国内のサイバーセキュリティ資料では「小規模医療機関では管理者と一般職員のアカウントが事実上共用されている」ケースが指摘されており、その場合、アクセス権限と許可の境界が曖昧になり、ログから個人の行為を特定できないという問題が生じます。
これを避けるために、各医療従事者に個別のIDを発行し、管理者権限を持つアカウントは限定された担当者のみに付与すること、管理者アカウントでの日常業務利用を禁止することが推奨されており、ID管理そのものが安全な権限運用の基盤になります。
また、医療情報システムを提供する外部事業者向けの指針では、クラウドサービス側でもアクセスログを保持し、医療機関側へ提供できることが求められており、院内だけでなくサービス提供側も含めた「二重のログ」で安全性を高めるという考え方が示されています。
医療情報を扱う事業者向けガイドライン(クラウドや外部サービス連携時のポイントです)
医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン(経済産業省)
医療現場では、現行システムや人的リソースの制約から、アクセス権限と許可の運用に「グレーゾーン」が生じやすく、例えば「当直時に他科のIDを借りてログインする」「研修医が指導医のアカウントで操作する」といった行為が暗黙のうちに行われていることがあります。
このような慣行は、短期的には業務を回すための「合理的な工夫」に見えるかもしれませんが、ログ上は「誰が何をしたか」が分からなくなり、インシデント発生時の原因究明が困難になるだけでなく、意図しない情報閲覧や改ざんのリスクを高めます。
独自視点の改善策として、すべてを禁止するのではなく、「代行操作」や「代理記録」を正式なワークフローとして組み込み、システム上も代理操作を記録できる機能(例えば「〇〇医師の指示のもと△△看護師が入力」と記録する仕組み)を導入することで、現場の柔軟性とトレーサビリティを両立させる方法が考えられます。
また、アクセス権限と許可の設計段階から現場の医師・看護師・コメディカル・事務職を巻き込み、「この操作は誰がやるのが妥当か」「どこまで自動化できるか」といった議論を行うと、運用現場にフィットしたルールになり、不正なアカウント共有の動機も減らすことができます。
さらに、定期的な院内勉強会で「アクセス権限と許可がなぜ重要なのか」「ルールを守らなかった場合に患者・自分・組織にどのような影響があるか」をケーススタディも交えて共有することで、単なる「IT部門のルール」ではなく、「患者を守るためのプロフェッショナルとしての責任」として理解してもらうことが重要です。
医療機関のサイバーセキュリティ全般(グレーゾーンを減らすための意識啓発に役立ちます)
厚生労働省におけるサイバーセキュリティに関する取組(内閣サイバーセキュリティセンター)
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