
ACTH刺激試験は、犬の副腎皮質機能を評価するための重要な内分泌検査です。この検査では、合成ACTHを投与する前後の血中コルチゾール濃度を測定し、副腎の反応性を確認します。
参考)https://www.lans-inc.co.jp/inspection/data/naibunpitu1.pdf
犬におけるACTH刺激試験の正常値範囲は、検査機関や測定機器によって若干の違いがありますが、以下の基準が一般的に使用されています。
参考)acth%E5%88%BA%E6%BF%80%E8%A9%A6%E9%A8%93/">https://1013.jp/acth%E5%88%BA%E6%BF%80%E8%A9%A6%E9%A8%93/
| 病態 | 投与前(pre) | 投与60分後(post) |
|---|---|---|
| 正常 | 1.0~5.0μg/dL | 5.0~20.0μg/dL |
| グレーゾーン | 1.0~5.0μg/dL | 20.0~25.0μg/dL |
| 副腎皮質機能亢進症 | 1.0~5.0μg/dL | 25.0μg/dL超 |
| 副腎皮質機能低下症 | 5.0μg/dL未満 | 5.0μg/dL未満 |
血中コルチゾール値はACTH投与後30~90分で最高値に達するため、投与60分後の採血が標準的に行われます。このタイミングを逃さないことが、正確な診断には不可欠です。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の診断において、ACTH刺激試験は非常に有用な検査です。クッシング症候群は、副腎皮質から分泌されるグルココルチコイド(特にコルチゾール)が慢性的に過剰になることで発症します。
参考)犬の血液検査②「内分泌学的検査」(副腎・甲状腺)【獣医師解説…
ACTH刺激試験で、投与60分後のコルチゾール値が25.0μg/dLを超える場合、副腎皮質機能亢進症が強く示唆されます。20.0~25.0μg/dLの範囲はグレーゾーンとされ、臨床症状や他の検査結果と合わせて総合的に判断する必要があります。
クッシング症候群の特徴的な症状には以下のようなものがあります。
高齢の犬に多くみられ、原因の約90%は下垂体の腫瘍化や過形成による下垂体依存性、残りの10%は副腎腫瘍によるものです。正確な診断には、ACTH刺激試験に加え、低用量デキサメサゾン抑制試験(LDDST)や高用量デキサメサゾン抑制試験(HDDST)、内因性ACTH濃度の測定、腹部エコー検査などを組み合わせることが推奨されます。
参考)https://www.kuyama-vet.com/Cushing.pdf
富士フイルム 内分泌検査:副腎皮質関連 - 参考基準値や検査方法の詳細が記載
副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、副腎皮質ホルモンの分泌が不足することで起こる病気です。1~6歳の比較的若い犬でまれにみられ、日本ではトイプードルやパピヨンが好発犬種とされています。
ACTH刺激試験でのアジソン病の診断基準は以下の通りです。
参考)https://ameblo.jp/alma-ah/entry-12887523131.html
より厳密な基準では、投与前2.0μg/dL以下、投与後3.0μg/dL以下をアジソン病の確定診断基準とする施設もあります。逆に、投与前のコルチゾール値が2.0μg/dLを超えていれば、アジソン病は否定されます。
アジソン病の症状は、以下の通りです。
病気が進行するとショックを起こして命に関わる危険性があるため、早期発見・早期治療が重要です。血液検査では、電解質の異常(低ナトリウム/高カリウム)や高窒素血症がみられることがあります。
検査の注意点として、プレドニゾロンやヒドロコルチゾンは測定値に影響しますが、デキサメタゾンは影響しないため、ショック時の治療に使用できます。
ACTH刺激試験の正確な実施には、以下の手順と注意点を理解する必要があります。
検査手順:
1. 12時間前(21:00頃)からの絶食(絶水は不要)
2. 早朝に採血(Preコルチゾール、内因性ACTH)
3. テトラコサクチド酢酸塩(コートロシンR)を静脈注射または筋肉注射
- 体重5kg以上:0.25mg(1アンプル)
- 体重5kg未満:0.125mg(1/2アンプル)
4. 1時間後に再採血(Postコルチゾール)
昼行性動物である犬は、日内変動から早朝・食前のコルチゾールが最も低値を示します。このため、検査は早朝に行うことが推奨されます。
重要な注意点:
ACTH刺激試験に関する意外な事実として、副腎皮質機能亢進症のすべての症例がこの検査で診断できるわけではないという点が挙げられます。一部の症例では、ACTH刺激後のコルチゾール値が正常範囲内にとどまることがあり、臨床症状が明らかにクッシング症候群を示している場合でも、他の検査(LDDSTやHDDST)を併用する必要があります。
また、アジソン病発症個体のうち約10%はNa/K比が正常であるという報告があります。このため、電解質異常がないからといってアジソン病を除外することはできません。ACTH刺激試験が確定診断のゴールドスタンダードとなります。
もう一つの重要な点は、医原性クッシング症候群の診断です。ステロイド剤の長期投与により、副腎が萎縮し、ACTH刺激に対する反応性が低下します。この場合、ACTH刺激前後ともに5.0μg/dL未満(または2.0μg/dL未満)の値を示し、自然発生のアジソン病と類似した結果になります。鑑別には、内因性ACTH濃度の測定や、ステロイド投与歴の詳しい聴診が不可欠です。
さらに、甲状腺機能低下症との鑑別も重要です。甲状腺機能低下症は、代謝機能の低下により、ACTH刺激試験とは直接関係のない症状(肥満、脱毛、低体温など)を示しますが、併発する可能性も考慮する必要があります。
犬の血液検査②「内分泌学的検査」 - 副腎・甲状腺の検査詳細と参考基準値
炎症マーカー・内分泌検査Ⅰ - 犬の副腎皮質機能亢進症・低下症の診断基準表
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